Chapter 1 of 1

Chapter 1

探偵小説が一時より衰えたことは争われない。

雑誌が少くなった。大衆雑誌へもあまり探偵小説を掲載しなくなった。新聞へはほとんど全く探偵小説をのせなくなった。単行本も出さなくなった。

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何故衰えたか?

わかりきった話だ。

作が面白くなく、読者大衆が支持しなくなったからだ。

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何故探偵小説が面白くなくなったか?

わかりきった話だ。

既成作家がロクな作を書かず、新進作家にロクな者が出ないからだ。

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探偵小説は大衆文学の型として洵に好適なものだ。

大衆文学マゲ物と称するやつも、おおよそ探偵小説の型を活用している。

曾て探偵小説家であった僕などは、今でも最も探偵小説の型を活用して創作している。

大衆文学マゲ物は、今日ますます盛んだ。衰えるどころの騒ぎでは無く、将来いよいよ盛んになるだろう。

では、純粋の探偵小説も、盛んにならなけりゃァ不可ないじゃァないか。

どうしたら盛んになるか?

わかりきった話だ。

既成作家が勉強してよい作を書き、新進作家のよい奴がもっと沢山出てよい作を書くより仕方ないじゃァないか。

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勉強といったところで何も欧米の探偵小説を読んだり、トリックの研究をするばかりが勉強では無い。

一つの運動を起して、探偵小説界をイキイキさせることだって勉強だ。

世界がクサッていれば、中に住んでる人間だってクサル。

人間をイキイキさせようと思ったらその世界をイキイキさせる必要がある。

それには運動を起こすことだ。

薄っぺらでもいいから沢山雑誌を出せ、本屋を説いて出版もさせろ、どしどし会合もしろ、講演会もやれ、街頭へビラも張れ。

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千葉亀雄先生の処へ出かけて行って、意見を聴取し、それをすぐ実行に移せ。

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高級浪人として(生活に困まらず、立派な家など建てて納っている)森下雨村君を奮起せしめよ。

そうして何かを計画せしめよ。

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江戸川、甲賀、大下、水谷これら四先輩に手を組ませて何かをやらせろ! 何かでいいんだ、何かを! 何かからいいものが出て来る。

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以上わかりきったことばかり云ったが、次に僕は探偵小説を作る場合に、あまり遠くを見ずに、手近かを見て筋を立てるのも必要だということを云って見たい。

僕は曾てラジオで、筋の立て方というようなことを放送したが、その一例にしようと思って、自分の書斎にかけてある、洋館を刺繍した壁掛と、石膏の面と、美人が手をささげて縁に立っている浮世絵とをじっと三十分ほど見詰めていて、一篇の探偵小説の筋を立てたことがあった。その筋は時間の都合で放送しなかったが、そんな手近かの物から却って変った味のある小説の筋は出来るものである。

恋人の体をハダカにして、吟味することだけで、千枚ぐらいの探偵小説の筋は立てられる筈だ。

●図書カード

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