Chapter 1 of 6

――おい、この間、三の酉へ行ったろう? ……

ズケリといって、ぼくは、おさわの顔をみたのである。

――えゝ、行ったわ。……どうして? ……

と、おさわは、大きな目を、くるッとさせた。

――しかも、白昼、イケしゃァ/\と、男と一しょに、よ……

と、ぼくは、カセをかけた。

――あら、よく知ってるわね。

と、そのくるッとさせた目を、正直にそのまゝ、

――おかしいわ。

と、改めて、ぼくのほうにうつした。

――ちッともおかしかァない。……おかしいのはそッちだ……

――みたの、あなた、どッかで? ……

――そうだろうナ、多分……

――わるいことはできないッて、ほんとね。……けど、どこで……どこをあるいてるのをみられたろう?

――それよりも、一たい、何※なんだ、あれ? ……

――あれッて?

――あの男さ。

――あゝ、あれ?

――顔よりも大きなマスクをかけて、さ。……そんなに、人めがはゞかられるなら、何も、昼日中、あの人ごみの中を、いゝ間のふりに、女を連れてあるかなくったっていゝじゃァないか?

――そうだわよ。……そう思ったわよ、あたしだって……

――それだったら、なぜ止させなかったんだ? ……ウスみッともない……

――だって、それほどの人じゃァないんですもの。

――それほどの人じゃァない?

――そうよ。

――それほどの人じゃァないのに、君は。……そんな男と、あゝして? ……

――えゝ、そうよ。……一人じゃァ寂しいから、ヒョイと出来ごゝろで誘ったら、すぐに附いて来たのよ、あの人……

と、おさわは、ケロリとしたもので

――あたし、戦争がすんだあとでも、まだ、ずッと、上州の田舎に疎開したまんまでいたこと、いつか、話したでしょう? ……その間でも、あたし、お酉さまだけは、毎年、欠さなかったのよ。

――ということは、毎年、わざ/\、そのために、上州の田舎から東京へでゝ来たってわけか?

――えゝ、そう……

――何んだって、また、そんなに信心なんだ、お酉さまが? ……

――信心じゃァないのよ、好きなのよ。

――好き?

――そうなのよ。……好きなのよ、お酉さまが、たゞ……

――だって、好きッてのは……

――おかしいでしょう? ……そうよ、おかしいわ、わけをいわなければ……

と、自分で、自分をうなずいてみせ

――あたしね。……じつは、これでも、吉原の生れなのよ。

――吉原の?

――知らなかったでしょう?

――初耳だ。

――だって、あたし、だれにも、めッたに、いわないんですもの、それを……

――どうして、さ?

――それをいうの、かなしいんですもの……

といって、そッと目を伏せるようにしたかと思うと

――ウ、フ、フヽヽ……

と、急に、おさわは、いかにもおかしそうに、声をだしてわらった。

――ねえ、顔より大きなマスク。……うまいこというわね、あなたッて人。……ほんとにそうだったわ、顔より大きかったわ、あのマスク……

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