Chapter 1 of 19

小朝拝

寿永三年正月一日、法皇の御所は大膳大夫成忠の宿所、六条西洞院であるから御所としての体裁は整っていない。それ故、院の拝礼もなく、また内裏での行事である小朝拝も行なわれなかった。

屋島に立てこもる平家はここで新年を迎えたが、元旦の儀式がうまくゆかぬのは当り前である。主上はおいで遊ばすが節会も行なわれず、腹巻の奉納もなく、吉野の国栖人の歌舞奉仕もなかったので、

「いかに末世とはいえ、都にいればかかる有様はなかった」

などと嘆くことしきりであった。

世に青陽の春が訪れ、磯吹き渡る風も和やかに、陽の光も長閑にはなってゆくが、ここの平家は氷に閉じ籠められた気がして、とても心のどけき春などという心境とは遥かに遠いものがあった。平家が語るは昔のこと、都の楽しかりし思い出ばかりである。京の東岸西岸の柳も今は相前後して芽を吹き、南枝北枝の梅が咲けば花が散る時期はちがっているなどと話し合い、花の朝、月の夜に詩歌管絃、鞠、小弓、扇合せ、絵合せ、草尽くし、虫尽くしなど、心楽しく遊んだ思いを語り続け語り明かし、春の遅日を過すのであった。

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