Chapter 1 of 1

Chapter 1

父ぎみはしはぶき二つ、

母ぎみはそよ一雫、

瀬戸の海、東をさしし

三日まへに我を見ましぬ。

世馴れざる野がくれわらべ、

手文筥を封じもあへず、

ゐざり出て閾の端の

柱抱き面かくしぬ。

いとほしや小き学生

いくとせを東の京の

旅に寝ね旅にねざめて

文のわざいそしまむとや。

口軽く胸冷やけき

旅館女の待遇ぶりに、

慨きては、雨の夕の

欄に、おゝ、何のおもひで。

いとほし、と涙もろに、

叔母ぎみは守袋を

てづからにやさしうかけて、

わが背をそと撫でましぬ。

をりから車気近う、

婢女、荷をとゝのふれば、

父ぎみはいとおごそかに

健なれ、とそれよ一言。

母ぎみよ乳母よ叔母ぎみ、

朝露に五町濡れ来て

さらばよの御声ごえや、

やわらかにその尾をいきて

野の鶏の声も流れつ。

●図書カード

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