Chapter 1 of 1

Chapter 1

たとふれば戦ひ果てぬ、

日は暮れて二時を経ぬ

なまぐさき荒野の中に

双の眼を弾丸に射られて

なほ黒き呻吟をしのび、

よこたはる負傷の兵の

勇しきわかき心に、

秘めつゝむ苦痛遂に

鈍色の寂寞の気を

吸ふがごと嗚呼われこゝに。

くらがりの冷えたる室に

ひとり居ておもひ沈めば、

空想は蠑螺の殻の

底つ闇たどるがごとく、

鬱憂ははた南蛮の

夜深き荒磯の上に

鋭き銛を腮にうけて

横はる粗膚鮫の

断末魔――濁りゆく眼に

無辺なる闇を見るごと。

愛消えし人の心は

霜の夜の渚の泥に

まみれたる寄居蟹の殻の

冷やかに凍れたるごとし、

土色にはた青銅の

巨鐘の銹のやうなる

寂寞の五百重のなかに

一瞬も千とせのおもひ、

あゝかゝる日の凶時に

人は死に、花は萎れめ。

●図書カード

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