Chapter 1 of 4

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公表せんとして、このような短編を膨大な事件の山から選んで書く際の話だ。そういった事件では、我が友人の類稀なる才能のために、私は否応なく不思議な舞台の観客となり、時によってはその登場人物となってしまう。そのせいで書く際には我知らず失敗談よりも成功談が多くなる。だが何も彼の名声のためではない――正直なところ、思案に余るような場合こそ、彼の力とその器の大きさに賞賛を送りたくなるのだが――まともな理由としてはやはり、彼が失敗するときは誰であろうとうまくいかず、話は永遠に結末へ至らぬままというのが大半であるからだ。しかしながら、時として、推理は間違っているのに、それでも真相が明らかになるということがたまにある。この種の事件は六つほど書き留めてあるが、『第二の血痕』とこれからお話しする物語のふたつが、もっとも興味深い一面を見せてくれる。

シャーロック・ホームズという男は、運動のための運動は滅多にしなかった。だが、はげしい肉体労働に彼ほど耐えうる人間はほとんどなく、また確かに同じ重量級では、私の見たうちでも拳闘家として一流の部類に入るだろう。目的もなく体を動かすのは力の浪費であるとし、発揮するのは職業上役に立つという狙いがあるとき以外ほとんどない。それでいて疲れをまったく知らない。本来なら普段の鍛練を積まねばならぬはずなのだが、日々の食事もきわめて質素で、生活ぶりも厳格に過ぎるほど慎ましい。時折コカインを飲む以外の悪癖はなく、その薬物とて、事件が冴えなかったり、新聞に惹かれるものがなかったりして、日々に変化がないときに頼るに過ぎない。

早春のある日、ホームズはのんびりとした気持ちで散歩に出、私も同行してリージェント・パークをぶらついた。楡の木から緑の若芽が吹き出しかけ、栗の木のぬめりとする枝先からはちょうど五つに重なる葉をつけ始めたところだった。二時間近く一緒に歩き回ったが、ろくに会話もしなかった。お互い勝手を知り合った仲だから、この方がちょうどいい。五時になろうという頃、我々は再びベイカー街へ戻ってきた。

「すいません。」と戸を開けたとき小間使いの少年が言う。「お留守のあいだに男のお客さまがありました。」

ホームズはしまったというふうに私に目をやる。「これだから午後の散歩は。」とこぼし、「もうその人は帰ったのか?」

「はい。」

「中でお待ちするようにとは?」

「いえ、中へお通ししたんです。」

「どのくらい待っていた?」

「三十分ほどです。とてもせっかちな方で、ここにいらっしゃるあいだ始終、歩き回ったり足踏みしておられて。僕は部屋の外でお待ちしていたのですが、それでもわかるくらいで。ですがとうとう廊下にお出になって、『もう、帰ってこないじゃないか』と、そうその方はおっしゃいました。『もうほんの少しだけお待ちいただけますか』と申し上げますと、その方は『じゃあ外で待ちます。ここじゃ息が詰まりそうで。じきに戻ります。』とおっしゃっていきなりお出になり、いろいろ申し上げたのですが、お引き留めできませんでした。」

「いやいや、それで十分。」とホームズは言って、我々は部屋の中へ入った。「実に待ち遠しいね、まったく。ワトソン、僕は事件が欲しくてたまらなかった。どうも、その男が気を揉んでいたことからも、大事のようだ。おや! あの机にあるパイプ、君のではない。男の忘れ物か。よく使い込んだブライアで、軸が少し長い。愛煙家のあいだで琥珀と呼んでいるものだ。本物の琥珀の吸い口など、そういくつもロンドンにあるものかね。中に蠅がいるのがその証だと思っている輩もいる。ふん、いっぱしの商売人ともなれば、琥珀のまがい物に偽物の蠅を入れることくらいする。さておき、その男はよほど気が動転していたに相違ない。大切なはずのパイプを置き忘れるほどだ。」

「どうすれば、大切なパイプという結論が出るんだね?」と私は訊いた。

「何、僕の見積もりでは、そのパイプの元の値段は七から六ペンス。ところがほら、二度直しが入っている。一度は木の軸を、一度は琥珀のところを。いずれの直しもご覧の通り銀が巻いてある。パイプの値はもとより遥かに高くなっているはず。人というものは、自分から手当をしてやったパイプの方が、同じ額で買った同じものよりもずっと大切にする。」

「次の推理は?」と私は先を促す。ホームズがそのパイプを手でいじくりながら、彼独特の思いに沈んだ目つきでじっと見ていたからだ。

ホームズはパイプをつまみ上げ、細長い食指でその上を軽く叩く。ちょうど何かの骨について講義している大学教授がよくやるように。

「パイプというのものは、時として意外なほど人の興味を惹く。」と言う。「これほどひとりひとりの個性が表れるものはない。まあ、懐中時計と靴ひもを抜いての話だが、今回はそれほど目立ったことも大事なことも教えてくれそうにない。この持ち主について確かなのは、体格の立派な男で左利き、歯は丈夫だが手癖が悪く、あとあえて節約生活を送る必要はないということだ。」

我が友人の今の言葉は、声こそさりげなかったが、その目は私に向けられ、推理についてくるかどうか窺っているのがわかった。

「男が裕福というのは、七シリングのパイプで吸うからかね?」と私。

「銘柄はグロウヴナ・ミクスチュア、一オンス八ペンス。」とホームズは答え、小突いて手のひらに少量出してみせる。

「その半値でも葉としては贅沢だから、あえて倹約する必要がない。」

「なら他の点については?」

「この男、パイプの火をランプやガス灯でつける癖がある。ほら、片側がすっかり焦げているだろう? もちろんマッチではこうはならない。マッチの火をパイプの縁にあてておく男などどこにいる。だがランプで火をつけるとあれば、どうやっても火皿を焦がしてしまう。しかも焦げているのはみな右側。そこでこの男が左利きだと推察した。君もパイプをランプへ持っていけば、ほら右利きなら自然と左側が火に当たるだろう? 反対の手でもできなくはないが、ぎくしゃくする。これを始終やっていた。それから琥珀のところを噛みつぶしている。それをするには、筋肉も力もあって、歯も丈夫でなくてはならぬ。さて、間違いでなければ、その人物が階段を上っている。ならばこのパイプよりも面白い何かが研究できよう。」

ほどなくして、部屋の入口が開き、背の高い若者が入ってきた。男は灰色のダーク・スーツを無難に着こなし、手には鳶色の中折帽を持っていた。私は三十くらいと見当をつけたが、実際はもういくつか上だったらしい。

「すいません。」と男はまごつきつつも言う。「戸を叩いた方がいいとわかっていたんですが、ええ、わかってます叩かなきゃいけないんです。その、ちょっと気が動転してて、だから、今のことはそう考えてください。」男は眩暈がするというふうに手を額にかざし、座るというより倒れるといった調子で椅子に身を預けた。

「見たところ、二晩ほどお休みになってませんね。」ホームズがいつものようにうち解けた調子で語りかける。「神経にこたえるでしょう。仕事、ましてや遊びなんかよりも。僕にできることがあれば、何なりと。」

「相談に乗ってください、もうどうしてよいやら、僕の人生がめちゃくちゃになりそうなんです。」

「僕を諮問探偵としてお雇いに?」

「それ以上に、考えを伺いたいんです、賢いあなたに――道理を知るあなたに。これからどうすればいいのか知りたいんです。あなたなら絶対に出来ると思うんです。」

男は一気に言葉をまくし立てた。本人にとってはしゃべることすらつらく、もう気持ちだけで何とか持ちこたえているというふうに私には思えた。

「微妙な問題なんです。」と男は言う。「誰だって、家庭の問題を他人に話すだけでも嫌なのに、初対面のお二人と、妻の振る舞いについて話し合うなんて、とんでもない。そんな羽目になるなんて、ひどい話です。でももう行き詰まってしまったんです。助けが必要なんです。」

「そうですね、グラント・マンロウさん――」

とホームズが話し出すと、依頼人は椅子から飛び上がり、「えっ!」と大声を上げる。「僕の名前をご存じで?」

「お名前を伏せておきたいのなら、帽子の裏地に名前を書くのはおやめになるようおすすめします。もしくは、自分の話している相手には、帽子の山の方を見せることです。まったくの話、この友人と私は、数多くの変わった秘密をこの部屋で伺ってきました。そして幸いにも、大勢の人々の悩みを晴らしてまいりました。あなたにも同じようにして差し上げることができるかと存じます。そこでお願いです。貴重なお時間ですから、一刻も早く、事の次第をお話しいただけませんか。」

依頼人は再び額に手をやった。相当気の重いことなのだろう。その身振りと表情のあちこちから、内気で人見知りする男だということがわかる。そして気持ちのどこかに恥ずかしさがあって、自分の傷をできれば見せずにおきたいようだ。そのときふと、男はぎゅっと両手を組み合わせる。恥も外聞もないと決意の体で語り出した。

「こういう次第なんです、ホームズさん。僕は結婚してまして、もう三年になります。そのあいだ、妻と僕はお互いに深く愛し合い、幸せに暮らしていました。よくある新婚夫婦です。二人は似たもの同士で、そっくりです。考えも、言葉も、振る舞いも。ところが先日の月曜以来、突然、ふたりのあいだに壁ができたんです。僕は気づいたんです、妻の人生には、彼女の心には何かある。僕はちっとも知らなかったんです。町ですれ違う女の人のように。ふたりが離れてしまった、そのわけが知りたい。

そうです、先を続ける前にこれだけは念を押しておきたいのですが、ホームズさん、エフィは僕を愛してます。それについては絶対の自信があります。彼女は全身全霊をかけて僕を愛してくれています、まさに、今もっとも。わかります。感じます。議論の余地はありません。男というのは、女が愛しているときはそれだけですぐわかるのです。しかしふたりのあいだに秘密があります。これが晴れるまで、元と同じというわけにはいきません。」

「早く次第を聞かせてください、マンロウさん。」とホームズはもどかしそうに言う。

「でしたらエフィの過去について知ってることをお話しします。はじめて逢ったとき彼女は未亡人でした。それにしてはずいぶん若くて――二五でした。当時はまだヒーブロンという姓で、若い自分にアメリカに渡ってアトランタという町に住み、そこでヒーブロンという売れっ子弁護士と結婚しました。子どももひとり設けましたが、運悪く土地で黄熱が突発して、旦那も子どももそれで亡くなりました。旦那の死亡証明書も見たことがあります。それで彼女はアメリカにいるのがつらくなって、ミドルセックス州ピナにいる独り身の叔母のところへ帰ってきたんです。ついでですが、旦那は不自由しないだけのものを残していって、元本が約四五〇〇ポンドの株式を持っていて、旦那がずいぶん投資したらしく、平均で七分の配当があります。ピナに来て六ヶ月経ったばかりの頃、僕は彼女と出逢いました。ふたりは互いに恋に落ち、数週ののち結婚を致しました。

僕自身はホップの商いをやってますが、七~八〇〇ポンドの収入があるので、自分たちだけでも不自由なく、ノーベリに年八〇ポンドのこじゃれた屋敷を持ってます。小さなところですが割合田舎らしく、それでいて町にも近いんです。すぐ近くには宿が一軒、人家が二軒、あと小屋がひとつ正面の草地の向こうにあるだけで、そのほかは駅に行くまでのあいだ一軒もありません。仕事で決まった時季に町へ行きますが、夏のあいだはそれもなく、そんなふうにふたりは田舎の一軒家で、妻と僕は思う存分、幸せに暮らしていたんです。そうです、この呪わしい事件が始まるまで、ふたりには何の影も差したことはなかったんです。

先を続ける前にこれだけは申し上げねばならないのですが、ふたりが結婚したとき、妻は自分の財産をすべて僕名義にしたんです。僕はむしろ反対でした。だって困ったことになりますよ、僕が事業で失敗したら。でも彼女の意志は強く、押し通されました。さて、六週間ほど前のことです。彼女が僕のところへ来て、

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