Chapter 1 of 9
乘鞍岳を憶ふ
落葉松の溪に鵙鳴く淺山ゆ見し乘鞍は天に遙かなりき
鵙の聲透りて響く秋の空にとがりて白き乘鞍を見し
我が攀ぢし草の低山木を絶えて乘鞍岳をつばらかにせり
おほにして過ぎば過ぐべき遠山の乘鞍岳をかしこみ我が見し
乘鞍と耳に聲響きかへり見て何ぞもいたく胸さわぎせし
おもはぬに天に我が見し乘鞍は然かと人いはゞあらぬ山も猶
くしびなる山は乘鞍かしこきろ山の姿は目にかにかくに
乘鞍をまことにいへば只白く山の間に見し峰をそを我れは
うるはしみ見し乘鞍は遠くして一目といへどながく矜らむ
乘鞍はさやけく白し濁りたるなべてが空に只一つのみ
おろそかに仰げば低き蒼空を遙にせんと乘鞍は立てり
乘鞍は一目我が見て一つのみ目にある姿我が目に我れ見つ
まなかひに俤消たずたふときもの山に乘鞍人にはたありや
乘鞍は一目見しかばおごそかに年を深めてます/\思ほゆ