Chapter 1 of 9
一 清潔・整頓・能率
日露戦争のとき、東北の田舎の一農夫でロシア側の捕虜になった男があった。本国に護送され、欧州各国を次ぎ次ぎと送られて、数年がかりで、やっと日本へ送還された。
当時の東北の一寒村で、欧州各国の現状を、数年がかりで見て来た男といえば、非常に珍しかったにちがいない。それでいろいろな連中が、その男のところへ話をききに行った。しかしその男から得られた知識というのは、「えらいもので、立派な大きい町があって、人間がいっぱいいた。次ぎの町へ行っても、立派な町で、えらい繁華なものだった。港はまたとても立派で、人間が大勢いた」というだけであった、という話を最近きいて、思わず苦笑した。
われわれのアメリカ見聞記というものもそれに類した点が、大いにあることであろう。この流儀で、アメリカ生活の便利さを鼓吹され、生活の改善などを唱えられたら、一番迷惑するのは国民である。現に北海道全土から、地方の有識夫人たちを札幌に集めて、真空掃除器の話をしたという噂をきいたこともある。案外なことが、実際に行われているものだと、大いに感心した。
現在アメリカ生活の特徴は、清潔、整頓、能率の三語につきる。そしてその基調は、物を捨てる点にあるように、私には思われる。このアメリカの文化の基調にあるものは、「捨てる文化」である。だからこれを日本へ適用することは、なかなかむつかしい。