Chapter 1 of 10

屑屋の周助が殺されました。

佐久間町の裏、ゴミ溜めのような棟割長屋の奥で、魚のように切られて死んでいるのを、翌る朝になってから、隣に住んでいる、蝮の銅六という緡売りの、いかさま博奕を渡世のようにしている男が見付け、町内の大騒動になったのです。

周助はもう六十に手の届いた男、鉄砲笊を担いで江戸中を廻り、古着、ガラクタ、紙屑までも買って歩いて、それを問屋に持込み、わずかばかりの口銭を取って、その日その日を細々と送っている屑屋ですから、人に怨まれる筋などのあるべきはずもなく、そうかといって泥棒につけ狙われるほど、纏まった貯えのありそうな人間でもなかったのです。

ガラッ八の八五郎は、平次の指図でとにもかくにも飛んで行きました。

「八兄哥、もう遅いよ、下手人は挙がったぜ」

それを迎えて、路地一パイの大きな顔を見せるのは、お神楽の清吉です。

「ヘエー、そいつは手廻しがよかったね」

ムッと来たのを顔にも出さずに、この縄張荒らしに微笑をさえ見せるように、近頃の八五郎は鍛錬されていました。が、その微笑の苦渋な歪みは、八五郎の意志ではどうすることも出来ません。

「三輪の親分が、蝮の銅六を挙げて行ったよ。今頃は番所で調べているだろう。蝮と言われた男だから、どうせお白洲で石でも抱かせなきゃ、素直に白状する野郎じゃあるめえ」

お神楽の清吉はそう言って、骨張った顎を撫でるのです。元は三河島の馬鹿囃子に入っていたという清吉、いつの間にやら三輪の万七の子分になって、事ごとにガラッ八の向うを張っている岡っ引でした。

ガラッ八は、清吉の嫌がらせを聞き流して、屑屋の周助の家に入りました。入口の土間と、六畳一と間、それにお勝手と便所が付いたきり、見る影もなく住み荒らした長屋ですが、入口の土間は手入れ次第では、小さな店にもなるように出来たもので、周助はそこへ買い溜めのガラクタで、問屋で値の出なかったものや、古道具屋に持込んで、いくらかの利潤を見ようとしたものを、順序も系統もなく積み重ねて置きました。

大部分は皿、鉢、行灯、といった世帯道具の半端物ですが、中には大擬い物の高麗焼の壺、紫檀の半分欠け落ちた置物、某法眼の偽物の一軸、古九谷の贋物の花瓶――といった、物々しくもグロテスクな品物もあります。

一歩六畳に踏込むと、――

「あッ」

物馴れたガラッ八も顔を反けたほどでした。屑屋の周助――ガラッ八も顔見知りの親爺が、血潮の海の中にこと切れているのですが、得物の出刃庖丁は血潮の海の中に捨ててあります。

「八兄哥、この三軒長屋は、右隣が魚屋の伝吉で、左隣は蝮の銅六だ。二人とも昨夜は遅く帰ったから、何にも知らないって言い張るが、――血の凝った様子では、周助が殺されたのは夜中前だ、どっちか先に帰ったものが殺したに違えねえ――とこういう鑑定だ」

「どっちが先に帰ったんだ」

「それが判らねえ。伝吉は銅六の方が先だって言うが、銅六は伝吉より後だと言い張っている」

「それじゃ、銅六が殺した証拠にはなるめえ」

「銅六は亥刻(十時)過ぎに一度帰って灯をつけたまま、急に寝酒が呑みたくなって表の酒屋まで酒を買いに行ったが、いくら叩いても起きちゃくれない、腹は立ったが、どうすることも出来ないから、そのまま帰って寝た――とこう言うんだ」

「酒屋で訊いてみたのかい」

「そこに抜かりがあるものか。すぐ行って訊いてみたが、いかにも夜中に酒を買いに来た者はあるが、亥刻過ぎは商売をしないことにしてるから、開けなかった、とこうだ」

「それじゃ、銅六の言うのが筋が通っているじゃないか」

「伝吉は担ぎ売りの魚屋だが、町内では評判の良い男だ。男がよくて、世辞がよくて、魚が新しく、おまけに安い、――そのうえ出刃庖丁は伝吉の家から持出したものだ。伝吉は自分の家から持出した出刃庖丁を、死骸の側へ捨てておくような馬鹿馬鹿しい男じゃねえ」

「ヘーエ」

「それに下手人が魚屋なら、もう少し庖丁使いが器用だよ。人間だって鮪だって、大した違いじゃあるめえ」

「フーム」

「気の毒だが、今度の手柄はこっちだよ、――もう帰るのかい、八兄哥、銭形の親分に宜しく言ってくれ、ハイさようなら」

日頃銭形平次に鼻をあかされてばかりいる三輪の万七とお神楽の清吉は、平次のお膝元に事件があるのを狙って、疾風迅雷的に下手人を挙げて行ったのでしょう。死骸の側に捨ててあった出刃が伝吉のだから、下手人は伝吉でないと睨んだところなどは、ガラッ八が考えても、なかなかの出来栄えです。

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