Chapter 1 of 2

第一章

ちょっと生々しい騒動が昨年早々起り、当時アンジェラ・ラブ事件と呼ばれた。

ラブ令嬢は、舞台で急速に頭角を現し、類まれな美貌と端麗な容姿、素敵な笑顔を振りまいていたレディである。

むかしラブ船長という篤志家がおり、孤児のアンジェラは文無しだったので、手っ取り早い生活手段としてラブ船長の養子になった。

本当の女優じゃないことなど、最終的に成功したからどうでもいい。あとは、おつむが軽く、わがままな小娘で、恋愛の手管といったら、それこそ媚びるような情熱の才能があり、三か月前にも、十数人がこの女の為に恋敵の喉を欠き切らんと虎視眈々だった。

アンジェラ・ラブ令嬢の恋人の中で際立った人物が、若いレッドバーン公爵。二十歳までこの若い貴族は清教徒の祖母の庇護のもとで育ち、住居は緋紋城という弧城で、絵のように素晴らしい豪邸がヨークシャー沿岸にあった。

古代騎士の華麗な血統がレッドバーン公爵だ。純朴な情熱家だったので、ラブ嬢と知り合うや、たちまち罠にはまってしまった。

うわさ好きによれば、同嬢はたった一つの理由でレッドバーン公爵夫人になることをためらった。公爵にしては貧しかったからだ。かわいい令嬢は超現実家だった。

それにもう一人、熱を入れ上げたウェリントン・ミルズという恋人もおり、この若い億万長者の財力はノース炭田に由来する。

その間アンジェラ・ラブ令嬢はちょっと決めかねていた。保険をかけて、二人同時に婚約するという誠に都合のよい方策に打って出た。もちろん内緒だ。

これまた当然、避けられない事態が起こる。婚約者同士が「のらくらクラブ」で激しく口論し、同嬢には乱暴しなかったが、数日後に決着をつけようとなり、トルーヴィールの砂浜で撃ち合いをした結果、レッドバーン公爵は左腕を失ってしまった。

このホメロス風の試合が終わった後、決闘者それぞれにアンジェラ・ラブ令嬢から手紙が届いた。曰く、

「わたくし事態にとても悩み、激しい気性の騎士は選びかね、難題を解決するために、ドードルキン大公と結婚いたします。ちなみに同大公は欧州の大富豪ですの」

こんにちドードルキン大公妃は社交界の有名人になっており、タタール人の夫を崇めており、夫は時々妻をぶっている由。しょせんアンジェラはその種の男に惚れる類の女だった。

決闘相手のウェリントン・ミルズ大富豪は、今後女性を慎むと神々に誓い、六か月後、アミリア・ボルフィンチ令嬢と結婚した。ロックランド卿の一人娘だ。

一方、レッドバーン公爵は心に深手を負い、直ちにアメリカ西部へ狩猟旅行に出かけ、今後一年間いかなる手紙も新聞も送るなと厳命した。

順次これらはすべて、ライア新聞とユニバース新聞に詳しく載り、七回にわたり二紙は内容を競ったが、一致した事実はただ一点、レッドバーン公爵が本当に出国したということだけだった。

こんな色ごと記事にフィリックス・グライドほど興味を持った者はいない。ニューヨーク新聞であれこれ読み、西部特急列車でレッドバーン閣下にお目見えし、安いお土産で攻略することにした。

その時グライドは重い病気にかかっており、療養のため英国へ帰るところだった。直ちに計画を変更して、同じ列車でレッドバーン公爵一行と数日を過ごした。この行動はやがて日の目を見ることになる。

最終的にニューヨークを去るにあたり、グライドは英国に手紙を二通送った。手元の筆跡をまねたものだが、やがて自分が苦しむことになろうとは……。

九日後帰英して、驚くと共に嬉しかったのは、コーラ・コベントリが訪ねてきた。この時期、皆が街を出る。コーラは構う人がおらず、人恋しくなり、やっと行き場を見つけた。ここでグライドが局面をがらりと変えることになる。

「何だか具合が悪そうね」

とコーラ。

「病気なんだ。環境をすっかり変えたい。つまり快適な田舎の大邸宅で、ちょっと狩りもできて、さわやかな海風が吹くところだ。だが今は、まき餌が手元にないから、金をバラまけない。でも方法がある」

「あなたならできるわよ」

とコーラがおだててささやいた。

「古城に数カ月滞在する方法だが、うまくやれば費用はゼロだ。コーラ、きみは素晴らしい女優だし、アメリカにも二、三年いたことだし、どう?」

「いいわよ。退屈を紛らわすためなら何でもやるわ。やばくても信用する。ポール、どんな計画なの」

ご記憶の方もあろうが、コーラ・コベントリにとって、グライドはポール・マナーだ。

グライドが説明を始めた。

「とても簡単だよ。さしずめ俺は金持ちのサイラス・B・コベントリというアメリカ人になる。最近米国で一財産築いたことにする。はるばる妹に会いに来た。きみには米国に無名の金持ち兄さんがいるのさ。きみは、まあそのままでいい。もし危なくなったら、簡単な解決方法を後で教える。あした兄のサイラス・コベントリが訪ねてくる。役目上正装しているから、歓待してくれ」

「すてき。なんて面白い。で、どこへ行くの」

「緋紋城を六か月借りるつもりだ。あした二人で不動産屋に行くぞ。すべておぜん立て済みだから、きみは見ているだけでいい。何時に準備できるかい?」

コーラが十一時なら支度が終わると答えると、グライドは出て行った。

翌朝、出向くと、コーラが目を疑った。アメリカの上流階級にそっくりだ。顔色すら変わっている。

グライドがおもむろに言った。

「用意できたと思うが、同行してくれ。公爵代理人との契約だ。外に車を待たせている」

コーラは成り行きに任せた。しばらくして、二人はチープサイドに来た。アイアンモンガー通りにメッサー・サットン社があり、英国内のほとんどの不動産を一手に扱っている。

グライドがさりげなく無造作に差し出したこぎれいな名刺には「サイラス・B・コベントリ、ランハムホテル」という文字があった。

ややあって、二人は二階に案内され、事務所に通された。

「用件は分かると思うが」

とグライド。

マーチン・サットン氏がテーブルから手紙を取り上げて、

「あ、はい、お待ちしておりましたコベントリさん。お察しの通り、公爵から承っております」

「その手紙は見た事がある」

とグライドが応えた。

「そうでございますか。ではお読み聞かせは致しません。公爵がおっしゃるに、ニューヨークでお知り合いになられ、英国に数カ月滞在なされたい由。条件は大きい家だそうで。どうでございましょう、緋紋城がぴったりと思いますが」

「そうだな。私はビジネスマンだから、緋紋城に滞在した友人から聞いたことがある。実は公爵に六か月の賃貸を申し込み、その場で小切手を切った。さらに半年延長する場合は君に連絡して、追加の小切手を君に払うよ」

「かしこまりました。お客さま、すぐ入居なさいますか」

「そうだ。金を払ったからには、私がすべて仕切る。地下のワインやら厩舎やらすべてだ。召使いは全員残し、給料に目配りして、家の維持費と、家計の不足費を払ってくれ。よいかな、サットンさん」

「よろしゅうございます、お客様。まったく問題はございません。それで、いつ入居なさいますか」

「次の月曜日だ。よければ」

「承知しました。私共のスタッフを一人緋紋城へ派遣して、執事と家政婦に全て説明させます。ほかに何かございませんか」

「ない。手間を取らせたな。では」

コーラが興奮してぞくぞくっ。スウィフト曰く、『女はすべからく本心は遊び人』であり、コーラも生まれながらの冒険好きだ。

これからとても面白いことが起こり、様々な機会が訪れ、自分には危険が及ばないということをよく知っている。もちろんグライドは全面的に信用できる。どんな場合も助けてくれるだろう。

両眼を踊らせながら、グライドを見つめて言った。

「すごいわね、ポール。次は何をするの」

グライドがぶっきらぼうに言った。

「昼飯だ。運転手にベリーズ・レストランまで直行させる。これから二、三日は罠を仕込むために忙しくなるぞ」

おいしい昼食を注文して、かき込んだ。シャンパンを飲みながらコーラはこれからの楽しみにわくわくした。

間違いなく公爵邸が招いており、人生の中で今回だけは大一番のレディを演じられる。

「ポール、あんたの計画にぞっこんよ。あんたって、なんて素敵な人なの」

「もっとすごいぜ」

とグライドが真顔で言った。

「あらそう。一つ不思議だけど。お金を払わずに公爵にどうやって手紙を書かせたの」

「公爵には書かせてないよ、ハハハ」

「なら、手紙がここにあるって、どうして分かったの」

グライドがまた笑ってグラスを満たした。ちょっと間を置いて、やおらコーラの好奇心を満たし始めた。

「やり口が分かれば簡単さ。あの手紙を知っていたのは、とても単純かつ当然の理由、つまり俺が書いたからだ。人は偽造というかもしれないが、我々は工作という」

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