Vol. 2May 2026

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天瓜粉

榎南謙一

この兄が怖いか おぼつかなげな眼をおずおずさせて 母の胸にあとしざりする 久しぶりに会う兄は 柿いろの獄衣 その傍には 肉親の談話を書きとめている無表情の立会看守 世馴れた大人でさえ おびえるこのコンクリトの塀のなかへ よくやってきてくれた、妹よ 兄はそんなに痩せてはいないだろう ここでは 鰯が食える 豚肉のカレー汁が啜れる 痩せているのはお前だ このごろの

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炭坑長屋物語

猪狩満直

「北海道のカラフト」みんな、そこの長屋をそう呼んでいた、谷間に並べ建てられたカラフト長屋、一日中ろくすっぽ陽があたらず、どっちり雪の積んでいる屋根から、煙突が線香を並べたように突き出ていた、俺は時々自分の入口を間違い、他家の戸口を開けた、屋根の煙突の何本目、そいつを数えて這入るのが一番完全であった「来年の四月頃になれば陽があたりますよ」古くから此処の長屋に住

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猪狩満直

昨日四石ひいたら 奴今日五石ふんづけやがった 今日正直に五石ひいたら 奴 明日は六石積むに違いねい おら坂へ行ったら 死んだって生きたってかまわねい すべったふりして ねころんでやるベイ そしたら橇がてんぷくして 橇にとっぴしゃがれて ふんぐたばるべ おれが口きかないともって 畜生 明日はきっとやってやる (『弾道』一九三〇年三月号に発表) ●図書カード

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赤兵の歌

江森盛弥

俺達は一度に声を挙げて集まって来たのだ、反動の軍旗をへし折って来たのだ、真っ青になって口も利けなくなった師団長の高慢なシャッポを蹴飛ばして来たのだ。俺達は目まいのしそうなビルディングの足塲から下りて来たのだ。俺達は街の鋪道から――地下工事の泥水の穴の中から匍い出して来たのだ。俺達は汽関車の胴の中から煤だらけの顔をしてやって来たのだ。俺達はボイラーの前からスコ

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愛か

李光洙

文吉は操を渋谷に訪うた。無限の喜と楽と望とは彼の胸に漲るのであった。途中一二人の友人を訪問したのはただこれが口実を作るためである。夜は更け途は濘んでいるがそれにも頓着せず文吉は操を訪問したのである。 彼が表門に着いた時の心持と云ったら実に何とも云えなかった。嬉しいのだか悲しいのだか恥しいのだか心臓は早鐘を打つごとく息は荒かった。何んでもその時の状態は三分間も

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コレラの伝染様式について

スノウジョン

この本の第1版は1849年の8月に出版されたものであるが、薄いパンフレットに過ぎないものであった。その時から後で、私はこの主題について種々の論文を書き医学会で話したり医学雑誌に刊行した。この版はこれらのすべての論文の内容だけでなく新事実を含んでおり、これらの大部分は私の最近の調査の結果である。 この調査のために戸籍本署長官がいろいろと便宜をはかってくださった

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診断 0:1

李箱

或る患者の容態に関する問題。 1234567890・ 123456789・0 12345678・90 1234567・890 123456・7890 12345・67890 1234・567890 123・4567890 12・34567890 1・234567890 ・1234567890 診断 0:1 26・10・1931 以上 責任医師 李箱 ●図書カ

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悔恨ノ章

李箱

最モ無力ナ男ニナルタメニ私ハ痘痕デアツタ 世ノ一人ノ女性モガ私ヲ顧ルコトハナイ 私ノ怠惰ハ安心デアル 両腕ヲ剪リ私ノ職務ヲ避ケタ モウ私ニ仕事ヲ云ヒ付ケル者ハナイ 私ノ恐レル支配ハドコニモ見当ラナイ 歴史ハ重荷デアル 世ノ中ヘノ私ノ辞表ノ書方ハ尚更重荷デアル 私ハ私ノ文字ヲ閉ジテシマツタ 図書館カラノ召喚状ガモウ私ニハ読メナイ 私ハモウ世ノ中ニ合ハナイ着物デ

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肉親の章

李箱

私は24歳。丁度母が私を産んだ齢である。聖セバスチアンの様に美しい弟、ローザルクサムブルグの木像の様な妹、母は吾等三人に孕胎分娩の苦楽を話して聞かせた。私は三人を代表して ――遂に―― オカアサマ ボクラ モスコシキョウダイガホシカツタンデス ――遂に母は弟の次の孕胎に六個月で流産した顛末を告げた。 アレハオトコダツタンダ コトシデ19  (母の溜息) 三人

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月原橙一郎

李箱

章魚ヲ始メテ食ベタ ノハ誰カ 鶏卵ヲ始メテ食ベタノハ誰カ 向シロ十分腹ガ空テイルニ違ヒナイ 石ト石トガ摺合イヲシ 長イ***ハ ヤハリ子供ガ出来ルラシイ 石ハ好キナ石ノトコロヘハ行ケナイ 私ノ路ノ前方ニ 一本ノ標杭ガ打ツテアル 私ノ不道徳ガ行刑サレテイル証據デアル 私ノ心ガ死ンデイル ト思ツテ私ノ肉体ハ動ク必要モアルマイト思ツタ 月ガ私ノ丸クナル背中ヲ恰モ 

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骨片ニ関スル無題

李箱

ヨクモ血ニ染マラナイデ白イママ ペンキ塗リノ林檎ヲ鋸デ割ツタラ中味ハ白(木)イママ 神様ダツテペンキ塗リ細工ガお好キ――林檎ガイクラ紅クテモ中味ハ白イママ。神様ハコレデ人間ヲゴマカサウト。 墨竹ヲ写真ニ撮ツテ種板ヲスカシテゴラン―骨骼ノ様ダ 頭蓋骨ハ柘榴ノ様デ イヤ柘榴ノ陰画ガ頭蓋骨様ダ(?) アナタ 生キタ人ノ骨片見タコトアル? 手術室デ―ソレハ死ンデイル

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街衢ノ寒サ ――一九三三 二月十七日ノ室内ノコト――

李箱

ねおんさいんハさつくすふおおんノ様ニ痩セテイル。 青イ静脈ヲ剪ツタラ紅イ動脈デアツタ。 ――ソレハ青イ動脈デアツタカラデアル―― ――否! 紅イ動脈ダツテアンナニ皮膚ニ埋レテイルト…… 見ヨ! ネオンサインダツテアンナニジーツトシテイル様ニ見ヘテモ 実ハ不断ニネオンガスガ流レテイルンダヨ。 ――肺病ミガサツクスフオーンヲ吹イタラ危イ血ガ検温計ノ様ニ ――実ハ

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李箱

妻は駱駄の様に手紙を呑んだまゝ死んで行くらしい。疾くに私はそれを読んでしまつている。妻はそれを知らないのか。午前十時電灯を消さうとする。妻が止める。夢が浮出されているのだ。三月の間妻は返事を書かうとして未だに書けていない。一枚の皿の様に妻の表情は蒼く痩せている。私は外出せねばならない。私に頼めばよい。オマエノコヒビトヲヨンデヤラウ アトレスモシツテイル ●図

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出版法

李箱

虚偽告発と云ふ罪目が僕に死刑を言渡した。様姿を隠匿した蒸気の中に身を構へて僕はアスファルト釜を睥睨した。 ―直に関する典古一則― 其父攘羊 其子直之 僕は知ることを知りつつあつた故に知り得なかつた僕への執行の最中に僕は更に新いものを知らなければならなかつた。 僕は雪白に曝露された骨片を掻き拾ひ始めた。 「肌肉は以後からでも着くことであらう」 剥落された膏血に

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且8氏の出発

李箱

亀裂の入つた荘稼泥地に一本の棍棒を挿す。 一本のまま大きくなる。 樹木が生える。 以上 挿すことと生えることとの円満な融合を示す。沙漠に生えた一本の珊瑚の木の傍で豕の様なヒトが生埋されることをされることはなく 淋しく生埋することに依つて自殺する。 満月は飛行機より新鮮に空気を推進することの新鮮とは珊瑚の木の陰欝さをより以上に増すことの前のことである。 輪不輾

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線に関する覚書7

李箱

空気構造の速度―音波に依る―速度らしく三百三十メートルを模倣する(何んと光に比しての甚だしき劣り方だらう) 光を楽めよ、光を悲しめよ、光を笑へよ、光を泣けよ。 光が人であると人は鏡である。 光を持てよ。 ―― 視覚のナマエを持つことは計画の嚆矢である。視覚のナマエを発表せよ。 □ オレノのナマエ。 △ オレの妻のナマエ(既に古い過去においてオレの AMOUR

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