Vol. 2May 2026

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心理の縦断と横断

田山花袋

箇々の対立までは、誰でも行けるが、それから箇々の融合まで行く路が容易でない。対立を痛感するといふことは、既にかなりに深く自己の心理の縦断をやつたことではあるが、この縦断から横断に移つて行く間に、越え難い大きな谷がある。そしてこの谷を渉るには殊に玲瓏透徹した縦断の太い丈夫な綱が必要である。 縦断にも、無限の度数があり、また無限の波動のリズムがあつて、絶えず一起

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「心理試験」序

小酒井不木

「心理試験」序 小酒井不木 江戸川乱歩兄から、こんど創作第一集を出すについて序文を寄せよとの事。わが探偵小説界の鬼才江戸川兄の創作集に、私が序文を書くなどということは、僭越でもあり恥かしくもあるが、同時にまた、私に序文を書かせてくれる江戸川兄の心が嬉しくてならぬ。で、とにもかくにも御引受して、さて、筆を取って見ると、少なからぬ興奮を覚え、いささか、かたくなっ

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『心理試験』を読む

平林初之輔

探偵小説の類は、西洋でもいわゆる「軽い読物」として、文学上には大した地位を占めていないのが普通である。戦後に書かれた二三冊のフランス文学史を開いてみても、私はモーリス・ルヴェルの名前すら発見することができなかった。探偵小説の本場である英米においても恐らく同じであろうと思う。ウェルズや、チェスタトンやハガードなどは別として、純粋の探偵小説家で、いわゆる「文壇」

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心に疼く欲求がある

宮本百合子

心に疼く欲求がある 宮本百合子 一 こんにち、私たちの生活感情の底をゆすって、一つのつよい要求が動いている。それは、日本の現代文学は総体として、その精神と方法とにおいて、きわめて深いところから鋤きかえされる必要があるという疼痛のような自覚である。 この欲求は、こんにちに生きる私たち多くのものにとって理性の渇望となっている。 五年来、現代文学は、社会性の拡大、

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わが心のなかの白鳥碑

佐藤春夫

白鳥先生はわたくしにとつても最も思ひ出の深い人である。 わたくしが十六七で、所謂文学青年といふものになつて師父を悩ましはじめたころ、最も愛読した作家は、思へば独歩、白鳥、さうして荷風であつた。この三人とも当年、自然主義全盛の文壇で新進の花形であつた。いつの時代の文学青年もさうであるやうに、わたくしもほとんど何もわからないでこの三人の令名をそのまま信用してこれ

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心眼

三遊亭円朝

心眼 三遊亭円朝 さてこれは外題を心眼と申す心の眼といふお話でござりますが、物の色を眼で見ましても、只赤のでは紅梅か木瓜の花か薔薇か牡丹か分りませんが、ハヽア早咲の牡丹であるなと心で受けませんと、五色も見分が付きませんから、心眼と外題を致しましたが、大坂町に梅喜と申す針医がございましたが、療治の方は極下手で、病人に針を打ちますと、それがためお腹が痛くなつたり

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心の絵

田山花袋

いつまで経つても、また何処まで行つても同じであるこの長い人生、時には退屈して何か人を驚かすやうなことをして見たいと思ふことはあつても、さて、さうしてやつて見たところで、矢張同じやうに何うにもならない人生――。この退屈さの対症療法としては、何も好い薬はないけれど、止むなくばそれ、孤独、無為、無想、無念か。 『あるがまゝで好い、あるがまゝで好い……。それを何うに

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心臓盗難 烏啼天駆シリーズ・2

海野十三

深夜の事件 黒眼鏡に、ひどい猫背の男が、虎猫色の長いオーバーを地上にひきずるようにして、深夜の町を歩いていた。 めずらしく暖い夜で、町並は霧にかくれていた。もはや深更のこととて行人の足音も聞えず、自動車の警笛の響さえない。 黒眼鏡にひどい猫背の男は、飄々として、S字状に曲った狭い坂道をのぼって行く。この男こそ、名乗りをあげるなら誰でも知っている、有名な頑張り

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『心』自序

夏目漱石

『心』自序 夏目漱石 『心』は大正三年四月から八月にわたつて東京大阪両朝日へ同時に掲載された小説である。 当時の予告には数種の短篇を合してそれに『心』といふ標題を冠らせる積だと読者に断わつたのであるが、其短篇の第一に当る『先生の遺書』を書き込んで行くうちに、予想通り早く片が付かない事を発見したので、とう/\その一篇丈を単行本に纏めて公けにする方針に模様がへを

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心の芽

小川未明

ある日、どこからか、きれいな鳥が飛んできて、木にとまりました。腹のあたりは黄色く、頭が紅く、長い尾がありました。野鳥のように、すばしこくなく、人間になれているらしく見えるのは、たぶん飼われていたのが、かごを逃げ出したのかもしれません。 みんなが、大騒ぎをしました。大人も、子供も、どうしたら捕らえられようかと、木の近くへ集まりました。正吉は、胸がどきどきして、

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『この心の誇り』 パール・バック著

宮本百合子

私たちは、どんな本でも、自分の生活というものと切りはなして読めない。そして、どんな本を読んでも、最後にはその印象が落ちてみのる生活の土壤というものは、日本の社会のさまざまな特質によって配合され、性格づけられたものである現実も知っている。私たちは、植物のようにひとりでにその土壤から生えているのではなくて、力よわくとも一人の人間の女であるから、自分の生命の価値に

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心の調べ

宮城道雄

心の調べ 宮城道雄 どんな美しい人にお会いしても、私はその姿を見ることはできませんが、その方の性格はよく知ることができます。美しい心根の方の心の調べは、そのまま声に美しくひびいてくるからです。声のよしあしではありません、雰囲気と申しますか、声の感じですね。 箏の音色も同じことで、弾ずる人の性格ははっきりとそのまま糸の調べに生きてまいります。心のあり方こそ大切

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心象風景

牧野信一

槌で打たなければ、切り崩せない堅さの土塊であつた。――岡は、板の間に胡坐をして、傍らの椅子に正面を切つて腰を掛けてゐる私の姿を見あげながら、一握りの分量宛に土塊を砕きとつて水に浸し、適度に水分を含んだ塊を順次に取り出しては菓子つくりのやうにこねるのであつた。 岡の額には汗が滲んだ。彼の労働の状態を眺めてゐると、私も全身に熱を感じた。私達は朝の七時から仕事に着

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心象風景(続篇)

牧野信一

岡といふ彫刻家のモデルを務めて私がそのアトリヱへ通ひ、日が延びる程の遅々たるおもむきで、その等身胸像の原型が造られてゆくありさまを緯となし、その間に巻き起る多様なる人事を経として、そしてその胸像が完成される日までを同時に本篇の完結と目指して、これには凡そ四五十枚の前篇がありますが、それはそれとして、新たに稿をすゝめます。 大二郎と閑吉が、在らぬ話を何かと意味

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心から送る拍手

宮本百合子

心から送る拍手 宮本百合子 六十八歳になられた作家森田草平氏が入党されたということは、多くの人にいろいろと語りかけるいみを持っています。人間は理性のある限り、年齢にかかわらず正しいと思う生活に前進するものであるという愉快な一つの例でもあります。早く老いこむ半封建的なまた個人主義的なこれまでの文士気質を一しゅうするものであります。 作家森田草平が平塚らいてうと

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心配な写真

牧野信一

「兄さんはそれで病気なの? 何だか可笑しいわ。まるで病気ぢやないやうだわね。」 「さうね、そんなのなら私達もちよつとでいゝからなつて見たいわね。」 二人の少女は、云ひ合せたやうにホヽヽヽと笑つて私を見あげました。二人とも私の従妹です。名前ですか――名前は遠慮しませう。何故なら私は、正直にこの二人の少女を描写しようと思ひますから。正直に書けば必ず怒られるに相違

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心の階段

田山花袋

十二年は有島君のことだの、武者小路君のことだの、地震だの、大杉君のことだの、いろいろなことがあつた。尠くとも作品そのものよりも、実際的に衝動を受けたことの方が多かつた。それに、私の一身上から言つても、半ば以上を旅に費したりして、しみじみ筆硯に親しんでゐる暇がなかつた。 静かに考へなければならない時がまたやつて来たやうな気がした。島崎君は老年に徹するといふこと

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心霊殺人事件

坂口安吾

心霊殺人事件 坂口安吾 伊勢崎九太夫はある日二人の麗人から奇妙な依頼をうけた。心霊術の実験に立ち会ってインチキを見破ってくれというのだ。九太夫はいまは旅館の主人だが、もとは奇術師で名の知れた名手であった。奇術師の目から見れば心霊術なぞは幼稚きわまる手品で、暗闇でやるから素人をだましうる程度のタネと仕掛だらけの詐術にすぎないのである。熱海の旅館なぞでもこの心霊

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心霊現象と科学 ――『心の領域』について――

中谷宇吉郎

リーダーズダイジェスト誌の五月号に、『心の領域』というかなり長文の記事がある。デューク大学の「超心理学」実験室長ライン博士の著書の紹介である。 超心理学というのは、従来の心理学の範囲を超越した心理現象を研究する学問という意味であろう。たとえば読心術とか、透視(千里眼)とか、予見とかいう種類の精神作用を研究する学問なのである。 従来の心理学はもちろん科学の一分

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心霊研究会の怪

海野十三

心靈研究會の怪 海野十三 その頃の研究 昭和五年から十年頃まで、わが國で、心靈研究がかなり盛んだつたことがある。 外國では、その當時も心靈研究が盛んであり、有名なシャーロック・ホームズ探偵の物語をたくさん書いたコーナン・ドイル翁も熱心な研究家であり、その著書もその頃わが國へ渡來し、紹介された。 アメリカでは、もつと早くから、心靈研究が盛んであつた。そしてそれ

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心願の国

原民喜

心願の国 原民喜 〈一九五一年 武蔵野市〉 夜あけ近く、僕は寝床のなかで小鳥の啼声をきいてゐる。あれは今、この部屋の屋根の上で、僕にむかつて啼いてゐるのだ。含み声の優しい鋭い抑揚は美しい予感にふるへてゐるのだ。小鳥たちは時間のなかでも最も微妙な時間を感じとり、それを無邪気に合図しあつてゐるのだらうか。僕は寝床のなかで、くすりと笑ふ。今にも僕はあの小鳥たちの言

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心の飛沫

宮本百合子

心の飛沫 宮本百合子 胡坐 ああ 草原に出で ゆっくりと楡の木蔭 我が初夏の胡坐を組もう。 空は水色の襦子を張ったよう 白雲が 湧いては消え 湧いては消え 飽きない自然の模様を描く。 遠くに泉でもあるか 清らかな風のふくこと! 私は、蟻の這い廻る老いた幹に頭を靠せ 牧人のように 外気に眼を瞑って 光を吸う。 耀や熱に 魂がとけ 軽々と情景に翔ぶ この思い。

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心の鬼

清水紫琴

心の鬼 清水紫琴 上 五百機立てて綾錦、織りてはおろす西陣の糸屋町といふに、親の代より仲買商手広く営みて、富有の名遠近にかくれなき近江屋といふがあり。主人は庄太郎とて三十五六の男盛り、色こそは京男にありがちの蒼白過ぎたる方にあれ、眼鼻立ちも尋常に、都合能く配置されたれば、顔にもどこといふ難はなく、風体も町人としては上品に、天晴れ大家の旦那様やと、多くの男女に

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