Vol. 2May 2026

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Showing 7,800 of 14,981 titles

惨事のあと

素木しづ

惨事のあと 素木しづ 一 楯井夫婦が、ようやく未墾地開墾願の許可を得て、其処へ引移るとすぐ、堀立小屋を建てゝ子供と都合五人の家族が、落著いた。と間もなく此の家族が四ヶ月あまりも世話になっていた、遠い親類にあたる、その地では一寸した暮しをしていた山崎という農家の、若い嫁と生れて間もない子供と、子供を背負うてかけつけて来た子守女と、その家の老人と四人が惨殺された

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惨めな文学的環境

原民喜

昨夜あなたは田中英光のことを近々書くといっていたが、直接面識のあったあなたの書くものは面白いだろうと期待しています。彼の死は何という悲惨な日本文化の象徴でしょう、どうも惨めなのはひとり英光だけでなく、これはほとんどわれ/\文筆業者全体の置かれている惨めさではないかと思います。恐らく二十五年度もあのような惨めな現象はつゞくのではないかと思えます。 昨夜もあなた

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惰眠洞妄語

辻潤

惰眠洞妄語 辻潤 1 今のような世の中に生きているというだけで――それだけ考えてみたばかりでも私達は既に値打づけられてしまっているように感じることがある。 昔、堯舜の時代というようなそんなものがあったか、なかったか、又この先きユウトピヤとか、ミロクの世の中とかいうものが来るか来ないか、そんなことを何遍繰返して考えてみたところで、私は少くとも今日一日の生命を生

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想像と装飾の美 それを持つ特殊の個性によって生かさるべし

岸田劉生

日本画を以て写実の道を歩こうとする事は根本から間違っている。日本画を以て写実を行うよりは駱駝の針の穴を通る方がやさしいといいたい位である。この意味で今日の新らしい日本画は殆ど皆駄目だ。物欲しそうな感じしか与えられない。 写実の道を歩みたいのなら諸君の前には至極便利な油画具がもう五、六十年も前から輸入されてある。一度日本画具を使って日本画師として立った以上、そ

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想い出

佐藤垢石

想い出 佐藤垢石 十五、六歳になってからは、しばらく釣りから遠ざかった。学校の方が忙しかったからである。 二十歳前後になって、またはじめた。 母と共に、二年続けて夏を相州小田原在、松林のこんもりとした酒匂村の海岸に過ごしたことがある。炎天を、毎日海辺の川尻の黒鯛釣りやはや釣りに専念して、第一年の夏は終わったのであったが、第二年は六月のはじめから鮎釣りをやって

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想い出

古川緑波

よき日、よき頃のはなしである。 フランスの汽船会社M・Mの船が、神戸の港へ入ると、その船へ昼食を食べに行くことが出来たものだった。 はじめての時は、フェリックス・ルセルという船だった。 その碇泊中の船の食堂で、食べたフランス料理の味を、僕は永遠に記念したい。 落着いた食堂で、純白のテーブル掛のかかったテーブルに着くと、黒ん坊のウェイターが、サーヴィスして呉れ

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想い出 絵の道五十年の足跡を顧みて

上村松園

土田麦僊さんが御在世の折、よく私の筆胼胝が笑い話になりましたものです。 無理もないことで、私が絵筆を執り始めてから、今日まで丁度丸々五十年になります。今年六十七歳になりまするが、この五十年間を、私は絵と取組んで参った訳になります。 明治八年四月二十三日が私の生まれました日で、父は二ヶ月前の二月に亡くなりましたので、その時分の事ゆえ、写真など滅多になく、私は全

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想断々(1)

北村透谷

想断々(1) 北村透谷 労苦界と戦争 ヱデンの園にアダム、神の禁を破りし時、ヱホバは彼に告げて言ひけるは「汝は一生の間、労苦して其食を得ん」と。蓋し労苦の世界は即ち戦争の世界なり。労苦よりして凡悩も利慾も迷盲も生ずるなれ、是等の者は即ち人生の戦争に対する肥糧なり。苟くも労苦あらん限り、戦争の精神は尽きぬなる可し。然れども、 戦争に対する偉人の理想 は、労苦を

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想断々(2)

北村透谷

想断々(2) 北村透谷 兵甲と国家 兵甲を以て国威を張るは変なり。兵甲は寧ろ国家を弱め、人心を危うするに足るも、以て大に国力を養ひ、列国に覇たらしむる者にあらず。国の本真は気にあり。気若し備はらば業挙らむ。凡そ業なくして勇を談ずるは、仮勇なり。業は以て地歩を堅うし、仮勇は以て自らを危うす。 請ふ米国を視よ 米国は迺ち業の国なり。始めより肯て国際間の武威を弄せ

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想片

坂口安吾

想片 坂口安吾 今日雑誌が一口にジアナリズムなる言外に多くの悪徳を暗示した汚名によつて呼ばれる時世となり、文学の本道まで万事浮遊して落付かぬ状態をつづけてゐる時に、一つくらゐジアナリズムに超然とし、正しき流行をつくるとも流行に追はれぬ雑誌が欲しいと思ふ。「作品」がそれだと言ふほど大袈裟にほめるわけにもいかないが、ジアナリズムの悪徳をもたぬことは確かである。落

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愉しい夢の中にて

坂口安吾

愉しい夢の中にて 坂口安吾 昨夜、ちやうど河田の夢を見た。 私は見知らない藁屋根のある農家の庭をぶら/″\してゐた。旅先であつたらしい。ひどい旅愁に苦しめられてゐたのである。どつちを眺めていいのか分らなかつたり、どの見知らない方角を眺めることも苦しかつたり怖ろしかつたり、身体が蒼白く痩せてしまひさうな心細い旅愁であつた。すると、暗い樹木の中から、まつさをな死

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愉快な教室

佐藤春夫

ラフカディオハーン――帰化して日本の名を小泉八雲と名告った文豪の意見によると、人間の草木や小動物に対する愛情の有無というものは先天的な天性によるもので、後天的に教育によっては与えることのできないものであるということであるが、幸なことにわたくしは、この天性を父母から極めてゆたかに受け継いで来ている。母は草木の好きな人であったし、父は小動物を愛する人であった。わ

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愉快な話

豊島与志雄

愉快な話 豊島与志雄 愉快な話というものは、なかなかないものだ。殊に事実談になると猶更である。事実談は、どんな愉快な面貌を具えていても、どこかに一脈の憂愁を湛えている。現実というものが、本質的にそう佗びしいものであるか、或は現実に対する吾々の感性が、現実をそう佗びしく塗りたてるのか、いずれとも分らないが、とにかく不思議な現象ではある。 ヨタになると、随分愉快

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ボデー意匠審査会 美術の粋を蒐め独特の形態美へ ――豊田常務の挨拶――

豊田喜一郎

わが社主催の乘用車車體設計懸賞作品審査會は六月廿日東京帝國ホテルに開催されたが晩餐會席上豐田常務、和田三造畫伯は夫々主客を代表して左の如き挨拶を交換、わが國自動車車體の將來に關し重大な示唆を與へた。 本日は御多忙中の處、小社の企てに御賛同下されました御厚意を幾重にも御禮申し上げます。 私は此の數年來より自動車工業の確立に就いて關心して居りましたが、實地に自動

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意味深き今日の日本文学の相貌を

宮本百合子

意味深き今日の日本文学の相貌を 宮本百合子 明治、大正年代にも、日本の文学は様々な意味で複雑、多岐な発展をとげて来たのであるが、この三四年間における日本文学が物語る歴史性、社会性の錯綜の姿は、或る意味で実に日本文学未曾有の有様ではないかと思われる。 明治、大正と徐々に成熟して来た日本の文学的諸要素が、世相の急激な推移につれて振盪され、矛盾を露出し、その間おの

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意慾的創作文章の形式と方法

坂口安吾

小説の文章を他の文章から区別する特徴は、小説のもつ独特の文章ではない。なぜなら小説に独特な文章というものは存在しないからである。 「雨が降った」ことを「雨が降った」と表わすことは我々の日常の言葉も小説も同じことで、「悲しい雨が降った」なぞということが小説の文章ではない。 勿論雨が「激しく」降ったとか「ポツポツ」降ったとか言わなければならない時もある。併し小説

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意慾的創作文章の形式と方法

坂口安吾

小説の文章を他の文章から区別する特徴は、小説のもつ独特の文章ではない。なぜなら小説に独特な文章といふものは存在しないからである。 「雨が降つた」ことを「雨が降つた」と表はすことは我々の日常の言葉も小説も同じことで、「悲しい雨が降つた」なぞといふことが小説の文章ではない。 勿論雨が「激しく」降つたとか「ポツポツ」降つたとか言はなければならない時もある。併し小説

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意欲の窒息

豊島与志雄

意欲の窒息 豊島与志雄 文化が新らしい方向を辿らんとする時、その派生的現象として、社会の或る部分に停滞腐爛を起す。大河の流れの中に、小さな淀みが処々に生ずるようなものである。流れと共に動こうとしても、河床や河岸の一寸した影響のために、一つの岩石のために、そこに淀んでしまう。そしてその中で、動く意志さえも無くなってしまう。文化の進展を欲する者が必然に起す種々の

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意識と時間との関係

坂口安吾

一、人は意識す。 二、意識ある時に於てのみ意識がある。意識なき時には意識はない。 三、意識は必ず意識された内容(意識内容)を持つ。意識なき時は意識内容を持たぬ。 四、意識の対象がなければ意識は意識内容を生ずることが出来ない。 系 意識の対象がなければ意識はない。 五、「意識する力」がなければ意識の対象を意識することが出来ない。 六、意識作用の全体は「意識する

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愚かなるものよ

徳永保之助

愚かなる。 太陽を捕え、朝の日光を、 縄をもって縛しめむとする。 風に乗り、あるはまた、 走る流れに逆らわむとする。 四季を阻みて、降る雨を止めむとする。 空気と戦う心無さよ。 ありとある力を、畢に無にせむ。 かかるに同じく、かかる業より更に愚かなる。 人の言う所を咎め、そを強いて教に適わさんとする。 定めを人の上に立て、 物言うも、そを超えしめぬ。 さなり

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愚かな一日

豊島与志雄

愚かな一日 豊島与志雄 瀬川が来ているのだなと夢現のうちに考えていると、何かの調子に彼はふいと眼が覚めた。と同時に隣室の話声が止んだ。彼は大きく開いた眼で天井をぐるりと見廻した。それからまた、懶い重みを眼瞼に感じて、自然に眼を閉じると、また話声が聞えてきた。やはり妻と瀬川との声だった。彼はその方へ耳を傾けた。 「……どうして取るのでございましょう?」 「さあ

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愚人の毒

小酒井不木

愚人の毒 小酒井不木 1 ここは××署の訊問室である。 生ぬるい風が思い出したように、街路の塵埃を運び込むほかには、開け放たれた窓の効能の少しもあらわれぬ真夏の午後である。いまにも、柱時計が止まりはしないかと思われる暑さをものともせず、三人の洋服を着た紳士が一つの机の片側に並んで、ときどき扇を使いながら、やがて入ってくるはずの人を待っていた。 向かっていちば

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愚助大和尚

沖野岩三郎

愚助大和尚 沖野岩三郎 愚助は忘れん坊でありました。何を教へましても、直ぐ忘れてしまふので、お父様は愚助を馬鹿だと思ひ込んで、お寺の和尚さまに相談にまゐりました。すると和尚さまは、 「其の子は御飯を食べますか。」と、ききました。お父様は、 「はいはい、御飯は二人前ぐらゐ平気で食べます。」と、答へました。和尚様は、又、 「其の子は打てば泣きますか。」と、問ひま

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