Vol. 2May 2026

Books

Public domain world knowledge library

Showing 7,848 of 14,981 titles

愛は神秘な修道場

宮本百合子

恋愛は、実に熱烈で霊感的な畏ろしいものです。 人間の棲む到る処に恋愛の事件があり、個人の伝記には必ずその人の恋愛問題が含まれてはいますが、人類全般、個人の全生活を通観すると、それらは、強いが烈しいが、過程的な一つの現象と思われます。 恋愛経験の最中にある時、或は何かの理由で恋愛的雰囲気に対して非常に敏感になっているとき、私共は自分にもひとにも第一、気になるの

JA
Original only

愛は終了され

萩原恭次郎

母の胸には 無数の血さへにじむ爪の跡! あるひは赤き打撲の傷の跡! 投石された傷の跡! 歯に噛まれたる傷の跡! あゝそれら痛々しい赤き傷は みな愛児達の生存のための傷である! 忘れられぬ乳房はもはや吸ふべきものでない 転居の後の如く荒れすたれ あゝ 愛はすでに終了されたのだ! さるを今 ふたゝび母の胸を蹴る! 新らしき世紀の恋人のため! 新らしき世界に青年た

JA
Original only

愛と美について

太宰治

兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。長男は二十九歳。法学士である。ひとに接するとき、少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さを庇う鬼の面であって、まことは弱く、とても優しい。弟妹たちと映画を見にいって、これは駄作だ、愚劣だと言いながら、その映画のさむらいの義理人情にまいって、まず、まっさきに泣いてしまうのは、いつも、この長兄である。それに

JA
Original only

愛の詩集 02 愛の詩集のはじめに

北原白秋

室生君。 涙を流して私は今君の双手を捉へる。さうして強く強くうち振る。君は正しい。君の此詩集は立派なものだ。人間の魂で書かれた人間の詩だ。さうしてここに書かれた君の言葉は尽く人間の滋養だ。君の甦りは勇ましい。さうして純一だ。魂は無垢だ、透明だ。おお、君は安心して君自身を世に示したがよい。さうして更に世の賞讃と愛慕とを受けたがよい。おお、上天の祝福よ、永久に我

JA
Original only

愛の詩集 04 愛の詩集の終りに

萩原朔太郎

私の友人、室生犀星の芸術とその人物に就いて、悉しく私の記録を認めるならば、ここに私は一冊の書物を編みあげねばならない。それほど私は彼に就いて多くを知りすぎて居る。それほど私と彼とは密接な兄弟的友情をもつて居る。 およそ私たちのかうした友情は、世にも珍なる彼のはればれしき男性的性情と、やや女性的で憂鬱がちなる私の貧しき性情との奇蹟めいた会遇によつて結びつけられ

JA
Original only

愛読作家についての断片

平林初之輔

私は、探偵小説は、手にはいるものは、見さかいなく、好きで読みますけれども、誰と言って、特別に好きな作家は、まずありません。 コナン・ドイルは、今でもそうとう面白く読めますが、いささか千遍一律なのが鼻につきます。数ヶ月前、本誌〔『新青年』〕の増大号にのった長編小説などは、どうも感心しませんでした。ことに、印度あたりから、超自然の力をもった僧侶をひっぱりだしてき

JA
Original only

愛読した本と作家から

黒島伝治

愛読した本と作家から 黒島傳治 いろ/\なものを読んで忘れ、また、読んで忘れ、しょっちゅう、それを繰りかえして、自分の身についたものは、その中の、何十分の一にしかあたらない。僕はそんな気がしている。がそれは当然らしい。中には、毒になるものがあるし、また、毒にも薬にもならない、なんにも、役立たないものもある。 空腹のとき、肉や刺身を食うと、それが直ちに、自分の

JA
Original only

愛護若

折口信夫

愛護若 折口信夫 一 若の字、又稚とも書く。此伝説は、五説経の一つ(この浄瑠璃を入れぬ数へ方もある)として喧伝せられてから、義太夫・脚本・読本の類に取り込まれた為に、名高くなつたものであらうが、あまりに末拡がりにすぎて、素朴な形は考へ難くなつてゐる。併し、最流行の先がけをした説経節の伝へてゐるものが、一番原始に近い形と見て差支へなからう。 何故ならば、説経太

JA
Original only

愛陶語録

北大路魯山人

なにしろ根がずぶの素人の陶作家、固より何の教養もあろうはずもなく、はじめは随分気のひけたものである。今でこそ、素人なればこその見識をそのまま仕事に打ち込むことができるのだ、などと言えるようになった。 それもそのはずである。最初のアマチュア時代が四十代で、それから三十年も経っている。遅れ過ぎて競走するのは全くいやになってしまう。 正直なところ、年甲斐もないのが

JA
Original only

たんぽぽとおれの感傷

陀田勘助

春の訪れをまっ先に知らせてくれた 黄色に輝くたんぽぽの花よ、 いま恍惚と夢見るように まっしろな球形の頭を微風になびかして 音もなくふっわりと羽蟻のごとく飛びゆく数々の種子は 青空の彼方へ 飛び行く種子よ! 周囲に呻吟するおれの希望を、思想を 雁のごとく伝波せよ そして来たるべき春に 雨・風・嵐に打ち勝って 工場の屋根に、野原に、ビルディングの窓に 鮮やかな

JA
Original only

インテリの感傷

坂口安吾

インテリの感傷 坂口安吾 今度の選挙で共産党が三十五人になったのは、民自党の二百六十何名同様予想を絶した現象であったが、這般の理由は、だいたい新聞の報ずるようなものであったろう。私としては、むしろ、急速に共産党を第一党にふくれあがらせ、政権をとらせてみたい。そうすれば、共産党のバカラシサ、非現実性は、すぐバクロする。政治が、民衆のものとなり、現実のものとなる

JA
Original only

感傷主義 X君とX夫人

辰野隆

感傷主義――サンチマンタリスム――にも、ぴんからきりまである。最も通俗なのは『金色夜叉』や『不如帰』をはじめ、所謂大衆小説と呼ばるる無数の小説を貫く甘い涙ぐましさとかいうものであろうが、高級なサンチマンタリスムには、『ボヴァリイ夫人』や『感情教育』の如き、凡そ大衆的な涙の味とは逆行する苦笑や憐憫、さては『エディポス王』や謡曲『隅田川』の如き、一つは酷烈な、一

JA
Original only

感傷の塔

萩原朔太郎

塔は額にきづかる、 螢をもつて窓をあかるくし、 塔はするどく青らみ空に立つ、 ああ我が塔をきづくの額は血みどろ、 肉やぶれいたみふんすゐすれども、 なやましき感傷の塔は光に向ひて伸長す、 いやさらに伸長し、 その愁も青空にとがりたり。 あまりに哀しく、 きのふきみのくちびる吸ひてきずつけ、 かへれば琥珀の石もて魚をかこひ、 かの風景をして水盤に泳がしむるの日

JA
Original only

感化院の太鼓(二場)

岸田国士

公園の一隅――杉の木立を透して黒板塀が続いて見え、梅雨晴れの空に赤瓦が光つてゐる。 小径を前にして朽ちかけたベンチが一つ、サイダアの空瓶や新聞紙の丸めたのや蹈みつけられた折などがあたりに散らかつてゐる。 繭子を先頭に、麦太郎、海老子夫人が現はれる。繭子は水色のパラソルをさした二十三四歳の未婚者。麦太郎は金釦の制服に帽子だけ鳥打といふ怪しげないでたち、おまけに

JA
Original only

感情の動き

宮本百合子

感情の動き 宮本百合子 喜び 人に使われずに、自由に勝手な自分の好きなことをしていられるのは、嬉しいことには違いない。 作家として、本当に自分自身の仕事が出来た時、心に感じたままを、一ばん心に訴えてくるものを、そっくりそのまま書けたら、それこそ最大の喜びであろう。 怒り 人間としてわたくしは、怒りもする、憤りもする。そしてその怒りや憤りの感じを、芸術の中に再

JA
Original only

感情喪失時代

中原中也

現代は、「不安の時代」だと云はれる。之に対して或人は理智の欠乏がその原因だといひ、或人は共通信条の不在を嘆いてゐる。みんなそれぞれ理由のある所であらうが、原因はいざ知らず、見渡した所感情が喪失されてある状態であること明らかであるやうである。 感情といふ語の内容も色々であらうが、「独り居て怡しむ」底の感情、対人的に発露するに非ざる、そこはかとなき欣怡の情である

JA
Original only

感想

岸田国士

感想 岸田國士 文学といふものを専門的なものと考へる理由は十分にあるが、また、これを専門的なものではないと考へる一面がある筈である。 専門家にしか興味のないやうな文学と、専門家には興味がないやうな文学(?)とが截然と別れてゐるところに、わが国現代文化の特殊性があるとみて、私は、今日のわれわれの仕事といふものの困難を、つくづく感じるのである。 個人々々の問題は

JA
Original only

感想

岸田国士

最近は芝居も映画もあまり見ない。東京をはなれて暮してゐる期間が長いためでもあるが、たまに東京へ出ても、わざわざ切符を買つて観に行く気がしないのである。自分の仕事に直接関係があるのだから、勉強のつもりで新しい芝居ぐらゐはのぞいておくべきだと思ふのだけれども、ついおつくうになつてしまふ。不心得だと云はれゝば一言もないが、それでも、私にしてみると、今のところ、脚本

JA
Original only

感想

北大路魯山人

感想 北大路魯山人 今春、思いがけない大雪が降って、都下全体交通ストップ、自動車などは一夜に皆エンコして一歩も前進できない因果な時、拙作陶の展示会を催すことになった。この大雪では誰一人見る人はなかろうと悲観していたが、意外! 数百人の目で拙作は静かに見おろされた。 私の作品は例の如く勝手気儘で、どんどん移りゆく現実の世界に解されていこうなどとは、てんで望んで

JA
Original only

感想

中原中也

地方の詩のグループも多いことだが、どういふものか、ずつと以前から大連と神戸にだけ面白いものが見られるのだつた。京都は嘗つて小生自身二年間ゐて、詩人にとつては有難い土地だと思つてゐるので、京都あたりからもつと面白いものが出てもよかりさうなものだと、かねがね思つてゐたが、仲々出なかつた。所が今年になつて「新生」を受取るやうになつてから、漸く出たなとおもつた。 「

JA
Original only

感想家の生れでるために

坂口安吾

感想家の生れでるために 坂口安吾 文芸時評はない方がよい。下品で、不潔俗悪で、百害あるのみだからである。文芸時評というものの性質が百害あるわけじゃなく、これを手がける作家の態度が卑屈俗悪だからである。 仲間の作品批評になると点が甘くなる。党派に依存するさもしさで、文学は常に一人一党だ。 芸術派は小党分立、ともかく党派的にシノギをけずるところもあるが、左翼とな

JA
Original only

感覚の回生

小川未明

夏の午後になると風も死んで了った。村の中は、湯に浸されたように空気が烈しい日の光りのためによどんでいる。私は、友達もなく独り座敷に坐って、外のもろこしの葉や、柿の葉に日の光りが照り付けているのを眺めていると、何事もすべて、其の葉に映っている日光の焼点の中に集められているような気がした。東京に行った隣の友吉の姿も、寺の御堂にかゝっている蜂の巣も、或る夕暮方、見

JA
Original only

感覚の殻

ダンバーオリヴィア・ハワード

そこは耐え難いほど変わっていなかった。黒っぽくまとめられた薄暗い部屋。一つのものから別のものへと視線を向けるたびに痛みが襲った。私の地上での日々を取り巻いていた心地よく馴染み深いものども。私の本質が信じられないほど変わってしまっていても、それらは鋭く私の注意を穿った。本棚から本を抜き出した跡がそのまま。世話をしてきた羊歯の繊細な指が尚も光に向かって徒に伸びよ

JA
Original only