Vol. 2May 2026

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Showing 9,720 of 14,981 titles

死体蝋燭

小酒井不木

死体蝋燭 小酒井不木 宵から勢いを増した風は、海獣の飢えに吠ゆるような音をたてて、庫裡、本堂の棟をかすめ、大地を崩さんばかりの雨は、時々砂礫を投げつけるように戸を叩いた。縁板という縁板、柱という柱が、啜り泣くような声を発して、家体は宙に浮かんでいるかと思われるほど揺れた。 夏から秋へかけての暴風雨の特徴として、戸内の空気は息詰まるように蒸し暑かった。その蒸し

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死児変相

神西清

死児変相 神西清 母上さま、―― 久しくためらつてゐましたこの御報告の筆を、千恵はやうやく取りあげます。 じつは姉上のお身の上につき申しあぐべきことのあらましは、もう一月ほど前から大よその目当てはついてをりました。だのに千恵は、「わからない、わからない」と、先日の手紙でも申しあげ、またつい一週間前の短かい手紙にも繰りかへしました。それもこれも嘘でした。いいえ

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死児を産む

葛西善蔵

この月の二十日前後と産婆に言われている大きな腹して、背丈がずんぐりなので醤油樽か何かでも詰めこんでいるかのような恰好して、おせいは、下宿の子持の女中につれられて、三丁目附近へ産衣の小ぎれを買いに出て行った。――もう三月一日だった。二三日前に雪が降って、まだ雪解けの泥路を、女中と話しながら、高下駄でせかせかと歩いて行く彼女の足音を、自分は二階の六畳の部屋の万年

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死の凱旋兵

国見善弘

砲煙弾雨の中に 常に描いて居た 懐かしい故郷の 停車場だった 白布に包まれた 木箱の中で 無言の英雄は 故郷に抱かれた 喜こびに 打ちふるえて 居るだろう 軽々と けれど つつましく 木箱を捧げた 戦友は 微かな砲煙の臭を 感じながら 高まって来る 感情を こらえて居た 弔旗がしずかに 垂れて 水を打った様な 出迎えの中を 今 悲しい死の 凱旋兵は 行く 一

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死刑

上司小剣

今日も千日前へ首が七つかゝつたさうな。… 昨日は十かゝつた。‥‥ 明日は幾つかゝるやろ。‥‥ こんな噂が、市中いツぱいに擴がつて、町々は火の消えたやうに靜かだ。 西町奉行荒尾但馬守は、高い土塀に圍まれた奉行役宅の一室で、腕組みをしながら、にツと笑つた。 『乃公の腕を見い。』 彼れは腕は細かつたが、この中には南蠻鐵の筋金が入つてゐると思ふほどの自信がある。其の

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死刑の前

幸徳秋水

死刑の前 幸徳秋水 第一章 死生 第二章 運命 第三章 道徳―罪悪 第四章 半生の回顧 第五章 獄中の回顧 第一章 死生 一 わたくしは、死刑に処せらるべく、いま東京監獄の一室に拘禁されている。 ああ、死刑! 世にある人びとにとっては、これほどいまわしく、おそろしい言葉はあるまい。いくら新聞では見、ものの本では読んでいても、まさかに自分が、このいまわしい言葉

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死刑囚最後の日解説

豊島与志雄

死刑囚最後の日解説 豊島与志雄 『死刑囚最後の日』Le dernier jour d'un condamn は、ヴィクトル・ユーゴー(Victor Hugo)の一八二九年の作である。作者は数え年で二十八歳、元気溌剌たる時であって、既に詩集二冊と戯曲『クロムウェル』とを発表して、ロマンチック運動の先頭に立ち、翌三〇年には、戯曲『エルナニ』の公演を機縁とするロマ

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死別の翌日

中原中也

生きのこるものはづうづうしく、 死にゆくものはその清純さを漂はせ 物云ひたげな瞳を床にさまよはすだけで、 親を離れ、兄弟を離れ、 最初から独りであつたもののやうに死んでゆく。 さて、今日はよいお天気です。 街の片側は翳り、片側は日射しをうけて、あつたかい けざやかにもわびしい秋の午前です。 空は昨日までの雨に拭はれて、すがすがしく、 それは海の方まで続いてゐ

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死の前後

豊島与志雄

死の前後 豊島与志雄 その朝、女中はいつもより遅く眼をさまして、本能的に遅いのを知ると、あわててとび起きた。いつもは、側にねているおしげが、眼ざまし時計のように正確に起上って、彼女を呼びさますのだったが、そのおしげの床が空っぽだった。それだけのことに彼女は変に心打たれ、いちどにはっきり眼をさまし、急いで寝間着を着かえ、帯を結びながら台所へやっていった。電気を

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「死」の問題に対して

新渡戸稲造

死というような哲学じみた問題は、僕らの口を出すべきものでもないし、また出したところで何らの権威にもなるまい。が、ただ死というものは人間として誰でも免るべからざる事柄であり、かつまた考えまいと思っても必ず我々の心を襲うて来る事柄であるから、哲学者でなくても、何人でも、死については何かの思想は持っているものである。しかし一般にいえば死なる現象をいくらか弄ぶという

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死因の疑問

豊島与志雄

死因の疑問 豊島与志雄 二月になって、思いがけなく、東京地方に大雪が見舞った。夕方から降り出したのが、夜にはひどい吹雪となり、翌朝は止んでいたが、見渡す限り地上一面に真白。吹雪のこととて、積りかたはさまざまだが、崖下の吹き溜りなどには、深さ一メートルに及ぶところもあった。 雪のあとはたいてい、からりと晴れるのが常だが、その日は薄曇り、翌日も薄曇りで、次の日に

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死の土壌 ロンドン危機シリーズ・3

ホワイトフレッド・M

二〇世紀疾病物語 玄関のベルがせわしくリンリンと鳴った。明らかに急患だ。ヒューバート医師が直々に、高名な医者がすることでもなかろうに、出迎えた時刻はなんと真夜中。背の高い上品なご婦人が夜会服に身を包み、玄関に転がり込んだ。髪のダイアモンドがキラキラ揺れ、顔が恐怖にひきつっている。 「ヒューバート先生ですね。フィリンガムと申します。ご存知の画家の妻です。すぐ来

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死んだ妹に寄せて

今野大力

私の妹が死んだ、妹は十四年この世に生きていて死んだ私はそれを施療病院のベットの上できいた涙も出なかった、そして泣くよりも切ない気持で一人の幼き者の死を追慕した死なせたくはなかった、生かしておいてこの世の中の正しい希望によろこばせてやりたかった生れてきたからにはそして肉親の兄である私が三十年の間に学んできたことを折ある毎に語りきかせ苦難の道ではあるが輝やかしい

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死に対して

宮本百合子

死に対して 宮本百合子 「めんどくさい、死ぬんだ」 胸をしっかりおさえて居た手を椅子のひじかけの上になげ出して男は叫んだ。心で力一っぱいさけんだけれど声には出せなかった。 そしてその死ぬんだと口ばしったことを又□□□の考るようにうなだれて自分の足を見つめた。いろいろなかわった射げきをうけてみだれにみだれ、高ふんしにしぬいた若者の心は今にも狂いそうになって居る

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死の川 ロンドン危機シリーズ・6

ホワイトフレッド・M

空が東から真鍮のようにめらめら赤くなり、暑苦しい熱が石や木や鉄から放射され、背中をジリジリ照りつける熱波は、まさに焼き物を連想させた。五百万余の人々がロンドンに暮らし、休暇シーズンの真っ最中だというのに、ハアハア肩で息をし、雨乞いしても一滴も降らない。 八月初旬の三週間、太陽が地獄火を降り注ぎ、どの建物も蒸し風呂になり、そよ風一陣吹いて煉獄を和らげる気配すら

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死の床

島崎藤村

「柿田さん、なんでもかんでも貴方に被入しつて頂くやうに、私が行つて院長さんに御願ひして来て進げる――左様言つて、引受けて来たんですよ。」 流行の服装をした女の裁縫師が、あの私立病院の応接間で、日頃好きな看護婦の手を執らないばかりにして言つた。 柿田は若い看護婦らしい手を揉み乍ら、 「多分行かれませう。丁度今、私も手が空いたばかし……先刻貴方から電話を掛けて下

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死と影

坂口安吾

死と影 坂口安吾 私がそれを意志したわけではなかったのに、私はいつか淪落のたゞなかに住みついていた。たかが一人の女に、と、苦笑しながら。なぜ、生きているのか、私にも、分らなかった。 私が矢田津世子と別れたことを、遠く離れて、嗅ぎつけた女があった。半年前に別れた「いづこへ」の女が、良人とも正式に別れて、田舎の実家へ戻っていたが、友人や新聞雑誌社へ手を廻して、常

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死後

正岡子規

死後 正岡子規 人間は皆一度ずつ死ぬるのであるという事は、人間皆知って居るわけであるが、それを強く感ずる人とそれ程感じない人とがあるようだ。或人はまだ年も若いのに頻りに死という事を気にして、今夜これから眠ったらばあしたの朝は此儘死んでいるのではあるまいかなどと心配して夜も眠らないのがある。そうかと思うと、死という事に就て全く平気な人もある。君も一度は死ぬるの

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死の復讐

国枝史郎

季節は五月。花の盛。南方露西亜のドン河の岸は波斯毛氈でも敷き詰めたように諸々の花が咲いている。ジキタリスの紫の花弁は王冠につけた星のように曠野の中で輝いているし、紅玉色をした石竹の光は恰度陸上の珊瑚のように緑草の浪に揺れながら陽に向かって微笑を投げている。 若い一人の放浪者がドン河に添うて上流の方へ疲労れた足付で歩いている。 蜜を漁る蜂の唸。藪で啼いている鶯

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死と愛と孤独

原民喜

死と愛と孤独 原民喜 原子爆弾の惨劇のなかに生き残つた私は、その時から私も、私の文学も、何ものかに激しく弾き出された。この眼で視た生々しい光景こそは死んでも描きとめておきたかつた。「夏の花」「廃墟から」など一連の作品で私はあの稀有の体験を記録した。 たしかに私は死の叫喚と混乱のなかから、新しい人間への祈願に燃えた。薄弱なこの私が物凄い饉餓と窮乏に堪へ得たのも

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死の接吻

小酒井不木

その年の暑さは格別であった。ある者は六十年来の暑さだといい、ある者は六百年来の暑さだと言った。でも、誰も六万年来の暑さだとは言わなかった。中央気象台の報告によると、ある日の最高温度は華氏百二十度であった。摂氏でなくて幸福である。「中央気象台の天気予報は決して信用出来ぬが、寒暖計の度数ぐらいは信用してもよいだろう」と、信天翁の生殖器を研究して居る貧乏な某大学教

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死の接吻 スウェーデンの殺人鬼

南部修太郎

猫の唸聲 「ふウん、臺所に電氣がついてる‥‥」 凍りついた雪の道に思はず足を止めて、若い農夫のカアルソンは宵闇の中に黒く浮んでゐる二階建の別荘の方へおびえたやうな視線を投げた。 千九百三十二年三月四日、ちやうど金曜の晩のこと、ストツクホルムから程近いモルトナス島のゼッテルベルグ老人の別荘へ昨日から度々電話を掛けてみるのだが一向に返答がない、日頃からごく懇意に

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ある死、次の死

佐佐木茂索

花嫁が式服を替えて、再座に著いた頃には、席は既に可なりな乱れやうであつた。 隆治夫妻は、機会さへあれば、もう帰りたいと思つてゐた。そこへ、廊下伝ひに来た女中が、彼等の背後の障子を静かに開けた。 「吉田さん、でいらつしやいますね。」と確めるやうに一つ微笑してから、「御電話で御座います。」 「おい。」 隆治が気軽に起たうとすると、妻の綾子が「私が参りませう。」と

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