Vol. 2May 2026

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自我の足かせ

宮本百合子

自我の足かせ 宮本百合子 日本にこれまでブルジョワ民主主義が確立されていなかった。現在は、日本のおくればせなブルジョワ民主革命の完成の時期である。だからヨーロッパでは十八世紀の終りから十九世紀のはじめにかけてみられた市民精神の確立――近代的自我の確立が必要であると考えている人がどっさりある。 まったく思えば日本の封建的尻っぽというものは、妖怪じみて巨大である

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自来也の話

岡本綺堂

自来也も芝居や草双紙でおなじみの深いものである。わたしも「喜劇自来也」をかいた。自来也は我来也で、その話は宋の沈俶の「諧史」に載せてある。 京城に一人の兇賊が徘徊した。かれは人家で賊を働いて、その立去るときには必ず白粉を以て我来也の三字を門や壁に大きく書いてゆく。官でも厳重に捜索するが容易に捕われない。かれは相変らず我来也を大書して、そこらを暴してあるく。そ

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自殺か他殺か

小酒井不木

「兄さん、こう暑くては、まったく頭がぼんやりするねえ」 少年科学探偵塚原俊夫君は、ある日の午後、実験室で、顕微鏡を見ていた顔をあげて私に言いました。七月になってから急に暑さが増して、二三日は華氏九十度近くに達しましたから、俊夫君が、このような嘆声を発するのも無理はありません。 「君の頭でも、ぼんやりすることがあるのかね?」 と、私は、別に皮肉を言うつもりでな

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ある自殺者の手記

小酒井不木

加藤君、 僕はいよいよ自殺することにした。この場合自殺が僕にとって唯一の道であるからである。 断って置くが、僕は決して、最近死んだ某文士を模倣するのではない。世間の人は二つの自殺が相前後して発生すると、後の例を前の例の模倣であると見做そうとする。しかし、これほど馬鹿げた話はない。そんな風にいうならば、世の中のすべての出来事は模倣でなくて何であろう。 が、僕は

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自殺を買う話

橋本五郎

自殺を買う話 橋本五郎 1 ――妻らしき妻を求む。十八歳以上二十七八歳までの、真面目にして且愛嬌あり、常識を有し、一生夫に忠実にして、血統正しく上品なる婦人ならば、貧富を問わず、妻として迎え優遇す。 当方三十一歳、身長五尺三寸、体重十三貫二百匁、強健にして元気旺盛、職業薬業、趣味読書旅行観劇其他、新時代の流行物。禁酒禁煙。将来の目的、都会生活を営み外国取引開

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自烈亭

牧野信一

僕は近頃また東京に舞ひ戻つて息子と二人で、霞荘といふところに寄宿しながら全く慎ましい日夕をおくり迎へて別段不足も覚えないのであるが、こんな小さな部屋では酒をのむわけにもゆかず、いつも神妙な顔をして、こつこつと小説を書き、書いても書いても何といふこともなく家を建てるなんていふことはおろか着物一枚買へもせず、それどころかいつの間にか鞄に入れて来たものもなくなつて

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「自然」

豊島与志雄

「自然」 豊島与志雄 私の家の東側は、低い崖地になっている。崖下の地先まで六七間、二三の段階をなしてる傾斜である。数本の落葉樹が新緑の枝葉を交差し、小鳥の往来繁く、地面には落葉積り、雑草生い茂り、昆虫類が戯れている。かくてこの崖地、僅かの坪数ながら、自然の風趣に富む。 庭先に椎の古木がある。この常緑樹は、他の落葉樹と異って、晩春初夏の頃、盛んに古葉を散らし、

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「自然を写す文章」

夏目漱石

「自然を寫す文章」 夏目漱石 自然を寫すのに、どういふ文體が宜いかといふ事は私には何とも言へない。今日では一番言文一致が行はれて居るけれども、句の終りに「である」「のだ」とかいふ言葉があるので言文一致で通つて居るけれども、「である」「のだ」を引き拔いたら立派な雅文になるのが澤山ある。だから言文一致は便利ではあらうが、何も別にこれでなければ自然は寫せぬといふ文

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自然に学べ

宮本百合子

自然に学べ 宮本百合子 明日の女らしさ、男らしさ。(川上まさ子さんへの答)のびのびとした手脚と美しく張った胸。女性の肉体の魅力は解放された女性の肉体にこそあります。まめやかで、創意にみちた精神の輝きのあふれた眼ざしと、よく働きよく笑う女性の笑顔を、どんな男がまねられましょう。 これまで日本の女性にあてはめられていた女らしさは、男の扮する女形で表現されました。

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自然の恵み ――少国民のための新しい雪の話――

中谷宇吉郎

われわれは大きい自然の中で生きている。この自然は、隅の隅まで、精巧をきわめた構造になっている。その構造には、何一つ無駄がなくて、またどんな細かいところまでも、実に美しく出来上がっている。 寺田先生がかつて、どんなに精巧につくられた造花でも、虫眼鏡でのぞいてみると汚らしいが、どんなつまらぬ雑草の一部分でも、顕微鏡でみると、実に驚くほど美しいということを書いてお

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自然描写における社会性について

宮本百合子

自然描写における社会性について 宮本百合子 「見る人のこころごころの秋の月」という文句がある。天にはただ一つしかない秋の月ではあるが、その月を眺めるひとの心のありようによって、清明な快い月であると思われるであろうし、月のさやけさに又かえって恨が深まるようなこともあろう。自然と人間との感情の交錯を、人間の主観の立場に立って観察したわかり易い一例であると思う。

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自然現象の予報

寺田寅彦

自然現象の科学的予報については、学者と世俗との間に意志の疎通を欠くため、往々に種々の物議を醸す事あり。また個々の場合における予報の可能の程度等に関しては、学者自身の間にも意見は必ずしも一定せざる事多し。左の一篇は、一般に予報の可能なるための条件や、その可能の範囲程度並びにその実用的価値の標準等につきて卑見を述べ、先覚者の示教を仰ぐと同時に、また一面には学者と

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自然界の縞模様

寺田寅彦

自然界の縞模様 寺田寅彦 ここでかりに「縞模様」と名づけたのは、空間的にある週期性をもって排列された肉眼に可視的な物質的形象を引っくるめた意味での periodic pattern の義である。こういう意味ではいわゆる定常波もこの中に含まれてもいいわけであるが、この動的なそうしてすでによく知られて研究し尽くされた波形はしばらく別物として取り除いて、ここではそ

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自由

小川未明

街の鳥屋の前を通ったとき、なんという鳥か知らないけれど、小鳥にしては大きい、ちょうど小さいはとのような形をした鳥が、かごの中にいれられて、きゅうくつそうに、じっとしていました。 黄色なくちばし、その鈍重なからだつき、そして、たえずものおじする、つぶらな黒い目を見ると、いじらしいという感じをさせられた。私は、この鳥をきらいでなかったのです。 「こんなに、狭いか

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自由主義私見

豊島与志雄

自由主義は、行動方針の問題ではなくて、生活態度の問題である。実践的動向の向うにある目的ではなくて、生活それ自体の翹望である。翹望である以上、固より、対象として「自由」を持つものではあるが、かかる「自由」は、本来、生活それ自身と合体しているものであり、謂わば、生活が本能的に持っている一面である。随って、かかる「自由」は、それのみでは、或る特定の社会構図を画くも

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自由の使徒・島田三郎

木下尚江

自由の使徒・島田三郎 木下尚江 幸福なる思ひ出 若き友よ。 僕が島田三郎先生を語るとなれば、直ぐに一つの場面が目に浮ぶ。 大正十二年、この年は正月早々から先生は身心の疲労で、議会へも出なされず一切来客を謝絶して、番町の自邸で静養して居られた。かゝる時、僕のやうな世務に全く無交渉の者は幸福で、時々お邪魔して、自由にお話することが出来た。 或日、先生は、この社会

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自由画稿

寺田寅彦

自由画稿 寺田寅彦 はしがき これからしばらく続けて筆を執ろうとする随筆断片の一集団に前もって総括的な題をつけようとすると存外むつかしい。書いてゆくうちに何を書くことになるかもわからないのに、もし初めに下手な題をつけておくとあとになってその題に気兼ねして書きたいことが自在に書けなくなるという恐れがある。それだから、いつもは、題などはつけないで書きたいことをお

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自由の真髄

新渡戸稲造

論語にある「己の欲するところに従えども矩を踰えず」の一句こそ実に自由の定義を能く述べて尽したものであると前号に説明し、然らば矩とは何なるかと反問し、これには大略内部と外部との二つに分つことが出来ようと述べた。外部の矩とは外部より来る要求、圧迫、強制等で、風俗習慣も一国の法律もその類であるが、しかしこの意味に於ける外部の矩も自分が心から心服して何の不平もなく甘

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自由なる空想

小川未明

最近は、政治的に行きつまり、経済的にも、また行きつまっている様な気がする。その反映は文芸の上にも現われていないことはない。だが、この時にこそ、文芸は、展開せられるのでもある。我々は、常に、思想の自由を有している。空想し、想像することの自由を有している。外的関係が、心までを萎縮するとはかぎらない。 現実の上に、真美の王国を築くことのできないものはこれを常に心の

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自由と進歩

中谷宇吉郎

新年を迎えて、過去一年間をふり返ってみると、まことに多事であったという気がする。鳩山総理のモスクワ訪問と日ソ交渉、砂川事件など、何となく急迫した空気が、日本の空におおいかぶさってくる気配が感ぜられる。 こういう気持を一層強めたものは、昨年の春から夏にかけて、一時日本を風靡した、いわゆる自由論争である。この方は、砂川事件ほど刺戟的ではなかったが、有識階級の間に

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