Vol. 2May 2026

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14,981종 중 12,216종 표시

花の咲く比

田中貢太郎

花の咲く比 田中貢太郎 暖かな春の夜で、濃い月の光が霞のかかったように四辺の風物を照らしていた。江戸川縁に住む小身者の壮い侍は、本郷の親類の許まで往って、其処で酒を振舞われたので、好い気もちになって帰って来た。 夜はかなりに更けていたが、彼は独身者で、家には彼を待っている者もないので、急いで帰る必要もなかった。彼はゆっくりと歩きながら、たまに仲間に提灯を持た

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花咲ける石

坂口安吾

花咲ける石 坂口安吾 群馬県の上越国境にちかい山間地帯を利根郡という。つまり利根川の上流だ。また一方は尾瀬沼の湿地帯にも連っている。 この利根郡というところは幕末まであらゆる村に剣術の道場があった。村といっても当時は今の字、もしくは部落に当るのがそれだから、山間の小さな部落という部落に例外なく道場があって、村々の男という男がみんな剣を使ったのである。現今では

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「花問答」後記

岸田国士

この一巻には、今までのどの作品集にもいれることのできなかつた、私としてはやゝ例外的な形式の短篇のみをあつめてみることにした。 従つて何れも試みの域に止まるものが多く、これを再び世に公けにすることは今では躊躇されるのであるが、春陽堂新支配人磯部節治君の強硬な勧誘を斥けることができず、その取捨を一任する約束で、同氏の好意に酬いるほかはなかつたのである。 たゞ、由

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花より団子

正宗白鳥

洗足池畔の私の家の向ひは、東京近郊の桜の名所である。私は、終戦の前年軽井沢に疎開して以来十数年間、毎月一度は必ず上京してゐたが、盛りの短い桜時には、一度も来合せたことはなかつた。この頃、こゝに居を定めることになつたので、久振りに花の盛りを朝夕たつぷり見ることが出来た。急速に温くなつたので、見る/\咲揃ふやうになつた。「細雪」のなかの或女性は、花のなかでは何が

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花壇工作

宮沢賢治

花壇工作 宮沢賢治 おれは設計図なぞ持って行かなかった。 それは書くのが面倒なのと、もひとつは現場ですぐ工作をする誰かの式を気取ったのと、さう二っつがおれを仕事着のまゝ支那の将軍のやうにその病院の二つの棟にはさまれた緑いろした中庭にテープを持って立たせたのだ。草取りに来てゐた人も院長の車夫もレントゲンの助手もみな面白がって手伝ひに来た。そこでたちまち箱を割っ

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「花妖」作者の言葉

坂口安吾

この小説は今までの新聞小説といくらか違って、場面や事件が時間的な順を追うて展開せず、心理の流れに沿うて、時間的にも前後交錯し、場面と人物も常に変転交錯しつゝ展開して行きます。 物語のかような心理的展開法は近代文学のあたりまえの型ですが、少しずつ毎日に分けて読む新聞小説では、前後の脈絡をたどるに不便ですから、余り試みられたことがなかったようです。 作者は敢て新

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ダニューヴの花嫁

牧野信一

白雲は尽くる時無からん、白雲は尽くる時無からん……白雲は――。 おゝ、あの歌はどこの人がうたつてゐるのであらう、何といふ朗々たる音声であらうよ、その声がそのまゝ雲のやうだ、あゝ、あゝ、あれを御覧、あれを御覧、雲が/\/\……。 そんなに思つて、うつとりと口をあけてゐると、みるみるうちに青空はるかに棚引いてゐる白い雲が、ハラ/\と雪のやうに飛び散つて、降つて来

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花子の陳述

豊島与志雄

花子の陳述 豊島与志雄 それは、たしかに、この花子が致したことでございます。けれど、悪意だとか企らみだとか、そのようなものは少しもありませんでした。ずいぶん辛抱したあげく、しぜんにあのようなことになりましたのです。 父の一周忌がすみましてから、二階の六畳と三畳の二室は、母のお友だちからの頼みで、須賀さん御夫婦にお貸し致し、母とわたくしは、階下の室だけでつまし

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花と少女

小川未明

ある日のこと、さち子は、町へ使いにまいりました。そして、用をすまして、帰りがけに、ふと草花屋の前を通りかけて、思わず立ち止まりました。 ガラス戸の内をのぞきますと、赤い花や、青い花や、白い花が、みごとに、いまを盛りと咲き乱れていたからです。 まだ、春にもならなかったので、外には、寒い風が、しきりに吹いていました。しかし草花屋の温室には、スチームが通っているの

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花屋の窓

片山広子

暮れかかる山手の坂にあかり射して花屋の窓の黄菊しらぎく この歌は、昭和十一年ごろ横浜の山手の坂で詠んだのであるが、そのときの花屋の花の色や路にさした電気の白い光も、すこしも顕れてゐない。何度か詠みなほしてみても駄目なので、そのまま投げてしまつた。しかし歌はともかく、秋のたそがれの坂の景色を私はその後も時々おもひ出してゐた。 まだ静かな世の中で、大森山王にゐた

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花巻農学校精神歌

宮沢賢治

花巻農学校精神歌 宮澤賢治 (一)日ハ君臨シ カガヤキハ 白金ノアメ ソソギタリ ワレラハ黒キ ツチニ俯シ マコトノクサノ タネマケリ (二)日ハ君臨シ 穹窿ニ ミナギリワタス 青ビカリ ヒカリノアセヲ 感ズレバ 気圏ノキハミ 隈モナシ (三)日ハ君臨シ 玻璃ノマド 清澄ニシテ 寂カナリ サアレマコトヲ 索メテハ 白亜ノ霧モ アビヌベシ (四)日ハ君臨シ カ

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花幾年

折口信夫

東京の春があらかた過ぎてから、ことしの花はどうだったかと思い出した年があった。自分だけかと思って、恥しいことだとひとりで赭くなって、誰にも言わなかった。五月近くなってから、「ことしの花は、どうだったけなあ」一人言い二人言い、言い出す人が、ちょいちょいあって、不覚人は、私ひとりでもなかったことを知った。併し痛切に感じたのは、やはり私位のものだろう。 その前年も

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花を持てる女

堀辰雄

私がまだ子供の時である。 私はよく手文庫の中から私の家族の寫眞を取り出しては、これはお父さんの、これはお母さんの、これは押上の伯父さんのなどと、皆の前で一つづつ得意さうに説明をする。そのうち私はいつも一人の見知らぬ若い女の人の寫眞を手にしてすつかり當惑してしまふ。 いくらそれはお前のお母さんの若い時分の寫眞だよと云はれても、私にはどうしてもそれが信じられない

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花を持てる女

堀辰雄

私はその日はじめて妻をつれて亡き母の墓まいりに往った。 円通寺というその古い寺のある請地町は、向島の私たちのうちからそう離れてもいないし、それにそこいらの場末の町々は私の小さい時からいろいろと馴染のあるところなので、一度ぐらいはそういうところも妻に見せておこうと思って、寺まで曳舟通りを歩いていってみることにした。私たちのうちを出て、源森川に添ってしばらく往く

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花月の夜

徳冨蘆花

花月の夜 徳冨蘆花 戸を明くれば、十六日の月桜の梢にあり。空色淡くして碧霞み、白雲団々、月に近きは銀の如く光り、遠きは綿の如く和らかなり。 春星影よりも微に空を綴る。微茫月色、花に映じて、密なる枝は月を鎖してほの闇く、疎なる一枝は月にさし出でゝほの白く、風情言ひ尽し難し。薄き影と、薄き光は、落花点々たる庭に落ちて、地を歩す、宛ながら天を歩むの感あり。 浜の方

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花のき村と盗人たち

新美南吉

むかし、花のき村に、五人組の盗人がやって来ました。 それは、若竹が、あちこちの空に、かぼそく、ういういしい緑色の芽をのばしている初夏のひるで、松林では松蝉が、ジイジイジイイと鳴いていました。 盗人たちは、北から川に沿ってやって来ました。花のき村の入り口のあたりは、すかんぽやうまごやしの生えた緑の野原で、子供や牛が遊んでおりました。これだけを見ても、この村が平

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花束

田山花袋

順吉は今でもはつきりとその時のさまを思ひ出すことが出来た。右に石垣、その下に柳の大きな樹が茂つて、向うに橋がある――その橋も、殿様のゐる頃には大小を挟んだ侍が通つたり、騎馬の武士が蹄を鳴して勇しく渡つて行つたりしたもので、昔は徒士や足軽の子供などはそこに寄りつけもしなかつたものであつたが、城に草が生えるやうになつてから全く廃たれて、ぎぼしは盗まれ、欄干は破れ

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花束一つ

牧野信一

彼は、不断に巨大な都市の建設に余念がない。あの都は何んな細道を覗いても花飾美と瑰奇美と新鮮美に溢れてゐる。あの市長は一個の煉瓦に至るまで恭々しく自らの手で焼き、一つ一つ自分で積みあげて、塔を建て、ビルヂングを建てゝゐる目醒しい努力家だ。たゞの努力ではない、努力だけでは彼の町は出来ない。独特な才能を持つた不思議な市長だ。――御覧な、あの数々のものの、剛健な、あ

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花枕

正岡子規

神の工が削りなしけん千仞の絶壁、上平に草生ひ茂りて、三方は奇しき木の林に包まれ、東に向ひて開く一方、遙の下に群れたる人家、屈曲したる川の流を見るべし。此處に飛び來れるは、さゝやかに美しき神の子二人、何處よりか採りて來し種々の花を植ゑ試みつゝ、白き羽の一人は黄なる羽の一人に向ひ、 「匂よ。菫、苧環、櫻草、丁字草、五形、華鬘草の類は皆此方に栽ゑて枕元を飾るべし。

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花椰菜

宮沢賢治

花椰菜 宮沢賢治 うすい鼠がかった光がそこらいちめんほのかにこめてゐた。 そこはカムチャッカの横の方の地図で見ると山脈の褐色のケバが明るくつらなってゐるあたりらしかったが実際はそんな山も見えず却ってでこぼこの野原のやうに思はれた。 とにかく私は粗末な白木の小屋の入口に座ってゐた。 その小屋といふのも南の方は明けっぱなしで壁もなく窓もなくたゞ二尺ばかりの腰板が

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花模様女剣戟

小野佐世男

花模様女剣戟 小野佐世男 1 ドレスの流行のように、映画も演劇も春の虹のように刻々と流行が変って行く。近頃は花が開いたように果然! 女剣戟流行時代と化して、日本全国津々浦々、劇団が乗り込んで来ると、絵看板は女だてらにあられもない、銀蛇の日本刀を颯爽とひらめかし、荒くれ男をバッタバッタとなぎたおす眼もあやなる極彩色にぬりつぶされて行く。 「いやもう驚くほかはあ

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花火

永井荷風

午飯の箸を取ろうとした時ポンと何処かで花火の音がした。梅雨も漸く明けぢかい曇った日である。涼しい風が絶えず窓の簾を動かしている。見れば狭い路地裏の家々には軒並に国旗が出してあった。国旗のないのはわが家の格子戸ばかりである。わたしは始めて今日は東京市欧洲戦争講和記念祭の当日であることを思出した。 午飯をすますとわたしは昨日から張りかけた押入の壁を張ってしまおう

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