Vol. 2May 2026

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行乞記 11 大田から下関

種田山頭火

八月廿八日 星晴れの空はうつくしかつた、朝露の道がすが/\しい、歩いてゐるうちに六時のサイレンが鳴つた、庵に放つたらかしいおいた樹明君はどうしたか知ら! 駄菓子のお婆さんが、よびとめて駄菓子を下さつた。 山口の農具展覧会行だらう、自転車と自動車とがひつきりなしにやつてくる。 山のみどりのこまやかさ、蜩のしめやかさ。 真長田村――湯ノ口近く――で、後からきた自

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行乞記 12 広島・尾道

種田山頭火

九月十一日 広島尾道地方へ旅立つ日だ、出立が六時をすぎたので急ぐ、朝曇がだん/\晴れて暑くなる、秋日はこたえる、汗が膏のやうに感じられるほどだ。 中関町へ着いたのは十一時過ぎ、四時頃まで附近行乞。 六時、三田尻の宿についた、松富屋といふ、木賃二十五銭でこれだけの待遇を受けては勿躰ないと思ふ。 夜は天満宮参詣をやめて旧友M君を訪ねる、涙ぐましいほど歓待してくれ

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行倒の商売

三遊亭円朝

行倒の商売 三遊亭円朝 是は当今では出来ませぬが、昔時は行倒を商売にして居た者があります。無闇に家の前へ打倒れるから「まアお前何所かへ行つて呉れ。乞「何うも私は腹が空つて歩かれませぬ、其上塩梅が悪うございまして。と云ふから仕方なしに握飯の二個に銭の百か二百遣ると当人は喜んで其場を立退くといふ。是が商売になつて居ました。或時此奴が自分の日記帳を落した。夫を拾つ

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行く可き処に行き着いたのです

宮本百合子

行く可き処に行き着いたのです 宮本百合子 私はあのお話をきいた時、すぐに、到頭ゆくところまで行きついたかと思いました。私はあの方と直接の交際をしたことはなく歌や人の話で、あの方の複雑な家庭の事情を想像していただけですが、たとえ情人があってもなくても、いつかはああなって行くのが、あの方の運命だったのでしょう。あんなに歌の上では、自分の生活を呪ったり悲しんだりし

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ボールの行方

小川未明

正ちゃんは、いまに野球のピッチャーになるといっています。それで、ボールをなげて遊ぶのが大すきですが、よくボールをなくしました。 「お母さん、ボールをなくしたから、買っておくれよ。」と、学校へいこうとしてランドセルをかたにかけながら、いいました。 「また、なくしたのですか。二、三日前に買ったばかりじゃありませんか。」 「僕、ボールがないとさびしいんだもの。」

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行く春の記

堀辰雄

行く春の記 堀辰雄 三月のはじめから又僕は病氣でねてゐました。漸つと快方に向ひ、この頃は庭に出られるやうになりました。もう春もだいぶ深く、牡丹の蕾が目に立つてふくらんで來てゐます。去年の春はその牡丹が咲き揃つてゐる間中、僕はよくその前で一人で長いこと怠けてばかりゐたものでした。「しばらくありて眞晝の雲は處かへぬ園の牡丹の咲き澄みゐること」そんな利玄の歌などを

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行為の価値

宮本百合子

行為の価値 宮本百合子 オーストリイのウィーン市のはずれに公園のように美しい墓地がある。そこに、ベートーヴェンの墓やモーツァルトの墓があった。偉大な音楽家の生涯にふさわしく、心をこめて意匠された墓が、晩春の花にかこまれてあるのを見た。 ポーランドのワルシャワ市はポーランド人が自由を求めて幾度の行進した町だが、そこの公園に美しいショパンの記念像がある。大理石の

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行つて見たいところ

田山花袋

四月から、何処に行つても面白い。海も好い。山も好い。あの温かい風が吹いて来ると、家の中にじつとしてゐられないやうな気がする。此処に少し行つて見たいところを書いて見る。 五月の中頃あたりに、那須の湯元に行つた時の心持は忘れられない。あそこは冬の長い間眠つてゐて、やつとその時分になつて眼を覚したといふやうな感じのするところで、伊香保などよりもぐつと荒涼としてゐる

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行軍一

竹内浩三

白い小学校の運動場で おれたちはひるやすみした 枝のないポプラの列の影がながい ポプラの枝のきれたところに 肋木の奇妙なオブジェに 赤い帽子に黒い服の ガラスのような子供たちが 流れくずれて かちどきをあげて おれたちの眼をいたくさせる 日の丸が上っている 校舎からオルガンがシャボン玉みたいにはじけてくる おれのよごれた手は ヂストマみたいに 飯盒の底をはい

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行軍二

竹内浩三

あの山を越えるとき おれたちは機関車のように 蒸気ばんでおった だまりこんで がつんがつんと あるいておった 急に風がきて 白い雪のかたまりを なげてよこした 水筒の水は 口の中をガラスのように刺した あの山を越えるとき おれたちは焼ける樟樹であった いま あの山は まっ黒で その上に ぎりぎりと オリオン星がかがやいている じっとこうして背嚢にもたれて 地

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行雲流水

坂口安吾

行雲流水 坂口安吾 「和尚さん。大変でございます」 と云って飛びこんできたのは、お寺の向いの漬物屋のオカミサンであった。 「何が大変だ」 「ウチの吾吉の野郎が女に惚れやがったんですよ。その女というのが、お寺の裏のお尻をヒッパタかれたあのパンスケじゃありませんか。情けないことになりやがったもんですよ。私もね、吾吉の野郎のお尻をヒッパタいてくれようかと思いました

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術数

小泉八雲

屋敷の庭で死刑が執行される事にきまった。その罪人は引き出された。今も読者が日本庭園で見られるような飛石の一列が真中にある、砂を敷いた広場へ坐らされた。彼は後ろ手に縛られていた。家来は手桶の水と小石の満ちた俵を運んだ。それから坐っている男のまわりに俵をつめた、――動けないようにくさびどめにしておいた。主人が来て、その準備を見た。満足らしく、何も云わなかった。

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街上スケツチ

牧野信一

明るいうちは風があつたが、陽が落ちると一処に綺麗に凪いで、街は夢のやうにうつとりとした。――円タクの運転手が、今年の冬は実に長かつた! と力を込めて話しかけた後に、然しまた、これからは事故が多くなるので、浮々しては居られない、事故では自転車が一番多い、居眠りをしながら走つてゐるのがあるのだから……。 「だが、今夜のやうな陽気だと、吾々もつい眠くなりさうだ。気

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街の乞食

今野大力

銀座の通りに畑が出来て 緑青々とした麦畑が出来ようと 空想していた友よ 一きれのパンをむしって乞食の子に与え 慈善をしたつもりの青年があった。 乞食をするものは 楽しみなのである 何と詩人めいた仕事であるよ 乞食をしていると 皆がお金をお菓子を呉れようとして呉れてゆくのである。 乞食のいない街は 淋しく又殺風景極まっているであろう。 ●図書カード

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「街はふるさと」作者の言葉

坂口安吾

「街はふるさと」作者の言葉 坂口安吾 さわやかで、明るい、静かな物語をかこう。 この物語の中の人たちは、金と女、愛と憎しみ、罪や汚れに困りぬいている。泥沼へおちてぬけでられない男もいるし、死に場所をさがす女もいる。誰か死ぬかも知れない。みんなの負うている宿命は暗いが、それは人間全部のものだろう。 街にはザワザワと無数の跫音がむれている。泥棒の跫音も、パンパン

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街の子

竹久夢二

街の子 竹久夢二 それは、土曜日の晩でした。 春太郎は風呂屋から飛んで帰りました。春太郎が、湯から上って着物をきていると、そこの壁の上にジャッキイ・クウガンが、ヴァイオリンを持って、街を歩いている絵をかいた、大きなポスターが、そこにかかっているのです。 十二月一日より ジャッキイ・クウガン 街の子 キネマ館にて と書いてあるのです。それを見た春太郎は、大急ぎ

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街の子等

今野大力

街の子は今日も遊んでいた そしてふと子供の一人が大声で言った 「やあい キョウサントウ!」 いい声だそしていい言葉だ 空間は完全にこの声に貫かれた 「やあい キョウサントウ!」 鬼ごっこで仲間の一人が捕ったので思い出したこの言葉 だが、これはただの言葉でない、 街の子が言うほどの遊びながら呼ぶほどの 捕まったので思い出したほどの言葉なれど この時代にはこの言

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街の少年

豊島与志雄

街の少年 豊島与志雄 一 港というものは、遠く海上を旅する人々の休み場所、停車場というものは、陸上を往き来する人々の休み場所、どちらもにぎやかなものです。その港と停車場とがいっしょに集まると、さらににぎやかでおもしろいものです。 インドのある都会の、港と停車場をむすびつける広場でのことです。港には毎日、船がではいりします。停車場には毎時間、汽車がではいりしま

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街の幸福

小川未明

盲目の父親の手を引いて、十二、三歳のあわれな少年は、日暮れ方になると、どこからかにぎやかな街の方へやってきました。 父親は、手にバイオリンを持っていました。二人は、とある銀行の前へくると歩みをとめました。そこは、石畳になっていて、昼間は、建物の中へはいったり、出たりする人々の足音が鳴るのであったが、夜になると、大きな扉は閉まって、しんとして、ちょうど眠った魔

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街底の熔鉱炉

佐左木俊郎

街底の熔鉱炉 佐左木俊郎 一 房枝の興奮は彼女の顔を蒼白にしていた。こんなことは彼女にとって本当に初めてであった。その出張先が自分の家と同じ露地の中だなんて。彼女は近所の侮蔑的な眼が恐ろしかった。しかもそれが同じ軒並みのすぐ先なのだから。彼女はすぐそのまま自分の家に帰って行く気はしなかった。彼女は日頃から親しくしている小母さんの家へ裏口から這入った。小母さん

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街の断片

原民喜

相手の声がコックだったので彼女は自分の声に潤ひと弾みとを加へた。その方が料理に念を入れて来るだらうし、――マネージャー達だって私の声を聴いてゐるのだから――さあ、もっとだらだら喋ってやらう。 ――ちょっと、ポテトは狐色に焼くのよ、え、解った? 卵は二つね、卵、あんまり焦さないでね、いいこと? モシモシ、ええ、卵よ、黄味を崩したりなんかしちゃ嫌よ。ちょっとそれ

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モルグ街の殺人事件

ポーエドガー・アラン

サイレーンがどんな歌を歌ったか、またアキリースが女たちの間に身を隠したときどんな名を名のったかは、難問ではあるが、みなみな推量しかねることではない。 トマス・ブラウン卿(1) 分析的なものとして論じられている精神の諸作用は、実は、ほとんど分析を許さぬものなのである。ただ結果から見て、それらを感知するにすぎない。そのなかでもわかっていることは、精神の諸作用を過

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