Vol. 2May 2026

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鈍走記

竹内浩三

生まれてきたから、死ぬまで生きてやるのだ。 ただそれだけだ。 * 日本語は正確に発音しよう。白ければシロイと。 * ピリオド、カンマ、クエッションマーク。 でも、妥協はいやだ。 * 小さな銅像が、蝶々とあそんでいる。彼は、この漁業町の先覚者であった。 * 四角形、六角形。 そのていたらくをみよ。 * バクダンを持って歩いていた。 生活を分数にしていた。 *

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鈍走記(草稿)

竹内浩三

1 生まれてきたから、死ぬまで生きてやるのだ。ただそれだけだ。2 日本語は正確に発音しよう。白ければシロイと。3 ペリオド、カンマ、クエッションマアク。でも、妥協はいやだ!4 小さい銅像がちょうちょうとあそんでいる。彼はこの漁業町の先覚者だった。5 四角形、六角形、そのていたらくをみよ。6 バクダンをもってあるいていた。生活を分数にしていた。7 恥をかいて、

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鈴木三重吉宛書簡―明治三十九年

夏目漱石

鈴木三重吉宛書簡―明治三十九年 夏目漱石 三〇五 明治三十九年一月一日 午前零時―五時 本郷區駒込千駄木町五十七番地より廣島市猿樂町鈴木三重吉へ 加計君の所へいつか手紙をやりたい。宿所を教へ玉へ 拜啓 御通知の柿昨三十日着直ちに一個試みた處非常にうまかつた。コロ柿は堅過ぎるがあれは丁度好加減です。小供にもやりました。君の神經衰弱は段々全快のよし結構小生の胃病

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鈴木主水

久生十蘭

享保十八年、九月十三日の朝、四谷塩町のはずれに小さな道場をもって、義世流の剣道を指南している鈴木伝内が、奥の小座敷で茶を飲みながら、築庭の秋草を見ているところへ、伜の主水が入ってきて、さり気ないようすで庭をながめだした。 「これからお上りか」とたずねると、「はっ、上ります」と愛想よくうなずいてみせた。 伝内は主水がかねてなにを考え、なにをしようとしているかお

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鉄のシャフト

野村吉哉

ゴシゴシゴシキイキイゴシゴシ……俺の役目はでっかい鉄のシャフトを磨くのだまっ赤に染まったどろどろの手袋の中で感覚を失ってしまっている俺の手は俺の全生命をこめて鉄のシャフトを磨くのだ ――捨値で買ったボロボロに腐りかけた幾万本の鉄のシャフトは磨いて塗って幾十倍に売りつけられるのだコンミッションの力で新品としてスラスラ通って行くのだ買うのは誰だ――やっぱり俺達だ

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鉄砲

坂口安吾

鉄砲 坂口安吾 天文十二年八月二十五日(四百一年前)乗員百余名をのせた支那船が種子ヶ島に漂着した。言葉は通じなかつたが、五峯といふ明の儒生が乗つてゐて筆談を交すことができた。ところが、船中に特に異様な二名の人物がゐる。一人をフランシスコ、他をダ・モータと云ひ、ポルトガルの商人で、この両名が各自その手に不思議な一物をブラ下げてゐた。 一物の長さは二三尺。中央を

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『鉄砲左平次』序にも一つ

佐藤春夫

何の国、何郡なり。 古来、魔所と伝える峠、或る晩そこで一人の若者が八ツ裂きにされて了った。峠を越えて夜毎隣村の娘に通うていた男である。 殺された男の友達思うに、今時魔物など住んでいる筈もない。これは言い伝えのある場所をよい事に、わざとかかる酷たらしき殺し方をして恋の意趣を晴らすものであろう。 女敵らしい者を物色し、復讐を企て夜陰にその峠を数人にて越える折から

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鉄窓の歌

木下尚江

鉄窓の歌 木下尚江 君よ。 これは人に見せる品物では無いが、先年始めて、普通選挙法が議会を通過した時、君は信州に居て、普通選挙運動の発端を、調査した縁故があるので、御一笑に供する。 明治三十年、僕が中村太八郎君に伴うて、始めて普通選挙請願運動を発起し、事務所を設け趣意書を頒布し、愈々活動に入らうとした時、不図した事件の勃発の為め、八月十日、二人共に松本監獄へ

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鉄の規律

平林初之輔

今から何年か前、詳しく言えば、千九百――年の夏のある日、午後八時頃ポーラー〔(通気性に富む上等の織物)〕の上着に白セル〔薄地の織物〕のズボンをつけ、新しいパナマをかぶって、顔にマスクをつけた、背の高い男が、銀座三丁目の常盤ビルディングの六階の一室へ、ふらりとはいってきた。 もう日はすっかり暮れて、華やかな電気の下を銀ブラのモガ〔モダン・ガールの略〕、モボ〔モ

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鉄道事故

マンパウル・トーマス

なにか話せ? しかしなんにも知らないのだがね。まあいいや。じゃなにか話すとしよう。 もう二年になるが、一度僕は汽車の事故に出くわしたことがあるのだ――一々のこまかいことまで、みんなありありと眼に残っているよ。 そりゃ決して最大級のやつじゃなかった。「弁別しがたき無数の死者」とかなんとかいうような、大げさなやつじゃなかった。そんなのとは違う。でもやっぱり、あら

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鉄鉢と魚籃と ――其中日記から――

種田山頭火

九月三日。 曇、さすがに厄日前後らしい天候。 朝は梅茶三杯ですます。身心を浄化するには何よりもこれがよろしい。 前栽の萩――それは一昨年黎々火君と共に裏山から移植したもの――が勢よく伸びて、びっしり蕾をつけている。早いのはぽつぽつ咲きだしている。萩は何となく好きな花だが、それは山萩にかぎる。葉にも花にも枝ぶりにも私たち日本人を惹きつけるものがある。 このごろ

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「鉄集」

堀辰雄

たしかシングであつたと思ふ。その詩集の序文中で、自分の詩が少數の仲間に讀まれるのみならず、丈夫や盜賊や、坊主どもにも讀まれて欲しいと云ふやうなことを云つてゐた。 この「鐡集」の詩人のねがひも或は其處にあるかも知れない。 この詩集の中で位、僕はこの詩人の不敵な面構へを見たことはない。あまりに眞劍なので、殆ど出鱈目さと面を突き合はせてゐる。あまりに強烈な詩なので

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鉄面皮

太宰治

鉄面皮 太宰治 安心し給え、君の事を書くのではない。このごろ、と言っても去年の秋から「右大臣実朝」という三百枚くらいの見当の小説に取りかかって、ことしの二月の末に、やっと百五十一枚というところに漕ぎつけて、疲れて、二、三日、自身に休暇を与えて、そうしてことしの正月に舟橋氏と約束した短篇小説の事などぼんやり考えていたのだけれども、私の生れつきの性質の中には愚直

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〔鉛のいろの冬海の〕

宮沢賢治

鉛のいろの冬海の 荒き渚のあけがたを 家長は白きもんぱして こらをはげまし急ぎくる ひとりのうなゐ黄の巾を うちかづけるが足いたみ やゝにおくるゝそのさまを をとめは立ちて迎へゐる 南はるかに亙りつゝ 氷霧にけぶる丘丘は こぞはひでりのうちつゞき たえて稔りのなかりしを 日はなほ東海ばらや 黒棚雲の下にして 褐砂に凍てし船の列 いまだに夜をゆめむらし 鉛のい

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鉛筆のしん

中谷宇吉郎

私たちは小さい時から、「おぎょうぎよくなさい」ということばを、いつも聞かされたものです。箸の持ち方、茶碗とお椀とお皿の置き方、食べ方、坐り方から、帯のしめ方までずいぶん細かいことを、いちいちやかましく注意されました。 こんなことは、昭和の時代になってから、だんだんゆるくなってきました。戦争中には、一時、ゆがめられた形で、しつけがやかましくいわれましたが、本当

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鉛筆日抄

長塚節

鉛筆日抄 長塚節 八月二十九日 ▲黄瓜 松島の村から東へ海について行く。此れは東名の濱へ出るには一番近い道なので其代りには非常に難澁だといふことである。磯崎から海と離れて丘へ出た。丘をおりるとすぐに思ひ掛けぬ小さな入江の汀になつた。青田があつて蘆の穗も茂つて居る。蘆のなかにはみそ萩の花がしをらしく交つて居る。畦を拾つて行くと田甫が盡きて小徑もなくなつた。仕方

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鉛筆の詩人へ

宮本百合子

さきごろは「鉛筆詩抄」を頂きまことにありがとうございました。 この前、鉛筆の詩を拝見したときから、わたしに感銘されていた詩の精神が、ここに集められているすべての詩のなかにこもっています。日本にも、生活そのものの中から、「言葉の魔術」をふりきって、「詩のポーズ」をけとばして、うたわれて来る詩のできたことは、何とうれしいでしょう。 わたしは詩というものが書けない

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鉛をかじる虫

寺田寅彦

鉛をかじる虫 寺田寅彦 近頃鉄道大臣官房研究所を見学する機会を得て、始めてこの大きなインスチチュートの内部の様子をかなり詳しく知ることが出来た。名前だけ聞いたところではたいそういかめしいお役所のような気がして、書類の山の中で事務や手続きや規則の研究をしている所かと想像していたのであるが、事実はまるで反対で、それは立派な応用科学研究所であって多数の実験室にはそ

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鉢かつぎ

楠山正雄

ある時、河内国の交野という所に、備中守実高というお侍がありました。たくさんの田地やお金があって、きれいな奥方を持って、この世の中にべつだん不足のない気楽な身の上でしたが、それでもたった一つ、何よりいちばんだいじな子供という宝物の欠けていることを、残念に思っていました。それで夫婦は朝夕長谷の観音さまにお祈りをして、どうぞ一人子供をおさずけ下さいましといって、そ

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『鉢の子』から『其中庵』まで

種田山頭火

『鉢の子』から『其中庵』まで 種田山頭火 この一篇は、たいへんおそくなりましたけれど、結庵報告書ともいうべきものであります。井師をはじめ、北朗兄、緑平兄、酒壺洞兄、元寛兄、白船兄、樹明兄、そのほか同人諸兄姉の温情によって、句集が出版され、草庵が造作されました。おかげで私は山村庵居の宿題を果すことが出来て、朝々、山のしずけさ人のあたたかさを満喫しております。こ

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鉱夫の歌

萩原朔太郎

めざめよ、 み空の金鑛、 かなしくうたうたひ、 なみだたれ、 われのみ土地を掘らんとす、 土地は黥青、 なやましきしやべるぞ光る。 ああくらき緑をやぶり、 天上よりきたるの光、 いま秋ふかみ、 あふげば、 一脈の金は空にあり。 めざめよ、 み空の金鑛、 かなしくうたうたひ、 なみだたれ、 われなほ土地を掘らんとす。 ―九月二日― ●図書カード

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鉱毒飛沫

木下尚江

鉱毒飛沫 木下尚江 兇徒嘯聚の疑獄起る 二月十三日、利根の河畔に於ける足尾鉱毒被害民と憲兵警官との衝突を報道せんことは、余が此の旅行の主たる目的には非ざりしなり。図らざりき余が重きを置かざりし此の出来事は、今や却て案外なる大疑獄を惹起せんとは。 直接に中央政府に向て請願せんと企てたる彼等二千五百の鉱毒被害民は、憲兵警官の為めに解散せられたり。而して之と同時に

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銀のつえ

小川未明

あるところに、いつも遊び歩いている男がありました。兄さんや、妹は、いくたび彼に、仕事をはげむようにいったかしれません。けれど、それには耳を傾けず、街のカフェーへいって、外国の酒を飲んだり、紅茶を喫したりして、終日ぼんやりと暮らすことが多かったのでした。 彼は、そこで蓄音機の音楽をきいたり、また、あるときは劇場へオペラを見にいったり、おもしろく暮らしていたので

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