Chapter 1 of 1

Chapter 1

囈語

芥川龍之介

僕の胃袋は鯨です。コロムブスの見かけたと云ふ鯨です。時々潮も吐きかねません。吼える声を聞くのには飽き飽きしました。

僕の舌や口腔は時々熱の出る度に羊歯類を一ぱいに生やすのです。

一体下痢をする度に大きい蘇鉄を思ひ出すのは僕一人に限つてゐるのかしら?

僕は腹鳴りを聞いてゐると、僕自身いつか鮫の卵を産み落してゐるやうに感じるのです。

僕は憂鬱になり出すと、僕の脳髄の襞ごとに虱がたかつてゐるやうな気がして来るのです。

(大正十五年五月)

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