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風宴
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風宴
梅崎春生
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Traducción Pagera AI
Original Public Domain
Chapter 6 of 6

六

昼前の明るい光の満ちた天願氏の部屋で、私達は朝御飯を食べた。風は全く止んでいた。空が淡青色に晴れわたり、雲が一片二片高い所に飛んでいた。私達は、郊外に行く話などしながら、遅い暖い御飯を食べた。食膳に、やせ衰えた秋刀魚が一匹ずつ乗っているのである。それでも腹のあたりにうっすりと脂肪を乗せていた。

旅川が呼びに来た。告別式が始まるのである。今朝方より大工がやって来て、泥竜館の玄関に壇をつくった。かんかん釘をうつ音が此の部屋まで聞えて来た。そこに白い幕をかけ、焼香の準備がしてあった。露地に長い腰かけをおいて、会葬者はそこに立ち並ぶのである。私達は下宿人等と一緒に並んで立った。花輪がいくつもある。泥竜館下宿人一同という札を下げた花輪もその中にまじっていた。僧侶の読経が始まった。

露地の中は人が押し合いへし合いする程、沢山の人が集った。白い服を着た看護婦の姿も見えるのである。そして読経がすんで、焼香が始まった。

下宿人の中では天願氏が真先に出て行った。人々の視線を浴びながら、天願氏は仏前まで頭を振りながら進んで行った。そして、鐘たたきを取ってチーンと鳴らした。一度で止せばいいのに、つづけざま二十遍ばかりちんちんちんと叩きつづける。香をひとつかみ掴んで香炉の中に投げこんだ。ゆらゆらと多量の煙がすすけた天井に立ち上る間に、天願氏が両手を合せて口の中でぼしゃぼしゃと言ったのが見えた。どうせ出鱈目を言っているに違いないと、私はひそかに思いながら後姿を眺めていた。

やっと重任を果したというような顔をして天願氏が戻って来た。香がまだ燻っている。煙が玄関を通って中庭の方に流れて行くのが、悠容たる趣きがあった。順々に皆が焼香する。私も人々にまじって焼香した。香のにおいを強く感じながら眼をつむって手を合せた。

告別式がすんで私達は天願氏の部屋にぞろぞろと集った。私達は其処で他愛もない無駄話に興じていると、下宿のおかみさんがやって来た。

「今から焼場に参りますけれども、皆さんもいらっしゃいますか」

来て貰いたくないけれど、形式的に聞きに来たという感じがはっきりと出ていたのである。

「参りましょう」と天願氏が大きな声を出した。私は天願氏の顔を眺めた。石のように無表情である。「さあ、出かけよう」と天願氏が先に立った。

玄関に立った時、棺は既にかつがれて露地を出ていた。そこの通りに自動車がたくさん並んで待っているのである。私達は露地に出た。

「ああ、何だかお正月のような気がする」と天願氏が言った。

侘びしい露地の明るさの果て、本郷の家並が曲りくねって連なり、戸毎に日章旗がひらひらとはためいている。祝祭日なのである。日の光さす道を曲りながら、霊柩車は既に粛々と動き出した。大気は、割に冷たかったが、お正月のような澄んだ明るさは、私の胸にもほのぼのと通って来るようであった。

乗り手をうながす為に自動車の運転手たちがぶうぶうと調子をつけて警笛を鳴らし始めた。私達は黒い露地の土を踏み、侘びしい明るさを拾いながら、通りの方へぞろぞろと出て行った。

●図書カード

Chapter 6 of 6
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