Chapter 1 of 26

ふしぎな老人

北見菊雄君は、小学校の四年生でした。おうちは東京の豊島区にあるのですが、近くに小さい公園があり、北見君は、友だちといっしょに、その公園で、よく野球などして遊ぶのでした。

公園には、毎日のように、みょうなおじいさんが、来ていました。しらが頭にベレー帽をかぶり、大きなめがねをかけ、白い口ひげと、あごひげをはやし、灰色の洋服を着て、ベンチに腰かけているのです。

北見君たちは、いつのまにか、そのおじいさんとなかよしになりました。おじいさんは、少年たちにおもしろい話を聞かせてくれるのです。

なんでもよく知っていました。学校の先生よりも、ものしりのように見えました。

「わしはね、科学者だよ。そして、発明家だよ。いま、すばらしいものを発明しているんだ。きみたちは、びっくりするよ。いや、どんなおとなでも、あっとおどろくような発明だよ。できたら、きみたちにも、見せてあげようね。」

おじいさんは、しわだらけの顔で、ニヤニヤ笑いながら、そんなことをいいました。

「それ、どんな発明なの? 何かを作っているの?」

少年たちが、たずねますと、おじいさんは、もったいぶったようすで、

「それは、まだいえない。わしの秘密だからね。むろん、何かを作っているんだよ。すばらしいものだ。世界じゅうの人が、あっとおどろくようなものだ。」

おじいさんは少年たちに会うといつでも、そのことを話しました。しかし、何を作っているのか、少しもうちあけてくれないので、少年たちは、つまらなくなって、もう、おじいさんが、そのことをいいだしても、耳をかたむけようとはしなくなりました。

その中で、北見菊雄君だけは、いつまでも、おじいさんの発明のことをわすれないで、どうかして、その発明したものを見たいと思っていました。

ある日のこと、友だちが、みんな帰ってしまって、北見君は、ひとりぼっちになったので、おうちへ帰ろうと、公園の出口の方へ歩いていきますと、そこのベンチに、あのおじいさんが、腰をかけていて、にこにこと、笑いかけました。

「おじいさん、あの発明、まだできないの?」

北見君が、そばによって聞きますと、おじいさんは、いつもより、いっそうやさしい、えがおになって、

「うん、やっとできたよ。すばらしい発明をなしとげたよ。きみは北見君といったね。きみが、いちばん熱心に、わしの話を聞いてくれたね。それにめんじて、いちばん先に、わしの発明を、きみに見せてあげようか。」

それを聞くと、北見君は、すっかりうれしくなってしまいました。

「うん、見せて! それは、どこにあるの?」

「わしのうちにあるんだよ。」

「おじいさんのうち、どこなの?」

「ここから五百メートルぐらいの、近いところだ。北見君、わしといっしょにくるかね。」

「うん、そんなに近くなら、行ってもいいや。ほんとうに見せてくれる?」

「見せるとも。さあ、おいで。」

そして、ふたりは公園を出て、大通りから、さびしいやしき町の方へ、歩いていきました。

いくつも町かどを曲がって、五百メートルほど歩くと、おじいさんは、

「ここだよ。」

といって、立ちどまりました。

いっぽうには、大きなやしきのコンクリートべいがつづき、いっぽうには草ぼうぼうの原っぱがあって、この原っぱの中に、古い西洋館がたっていました。

「あれが、わしのうちだよ。」

おじいさんは、北見君の手をひいて、道もない草の中を、その家の方へ、歩いていきました。

ポケットから、かぎを出して、入口のドアを開き、西洋館の中へはいりましたが、窓が小さいうえに、むかしふうのよろい戸が、しめきってあるので、うちの中はまっくらでした。

おじいさんは、北見君の手をひっぱって、ぐんぐん、廊下へあがって、暗いうちの中へ、はいっていきます。

廊下をひとまがりして、とあるドアを開くと、何かごたごたとならんでいる、ひろい部屋にはいりました。

カチッと、スイッチの音がして、電灯がつきましたが、大きな笠のある電気スタンドで、その下だけが明るくなり、部屋ぜんたいは、ぼんやりとしか見えません。

でもそのぼんやりした光で、およそのようすはわかるのです。おじいさんは、自分で科学者だといっていましたが、いかにも、この部屋は、科学者の部屋でした。

大きな電気のスイッチ板があり、曲がりくねったガラスのくだが、もつれあって、部屋の中をはいまわり、大きな机の上には、いろいろなガラスびんがならび、えたいのしれぬ機械があちこちに、すえつけてありました。

北見君は、あっけにとられて、このふしぎな部屋の中を見まわしていましたが、ふと、向こうのすみに異様な人間が立っているのに気づき、ギョッとしておじいさんの腕に、すがりつきました。

「あれ、あそこにいるの、だれですか?」

北見君が、おびえて、たずねますと、おじいさんは、

「ウフフフ……。」

と笑って、

「あれが、わしの発明した鉄人だよ。」

と、きみの悪い声で、答えました。

「てつじん……て、なんですか。」

「ロボットともいうよ。鉄でこしらえた人間だよ。」

北見君は、ロボットなら知っていました。でも、これは電気博物館で見たロボットとはちがっているのです。あのロボットの顔は、四角な鉄の箱のようなものでしたが、ここに立っているのは、人間とそっくりの白い顔をして、目も、鼻も、口もちゃんとあるのです。その目が、こちらをじっと見つめているのです。

「ウフフフ……。ロボットといってもふつうのロボットじゃないよ。ふつうのロボットなら、ちっともめずらしくない。どこにでもあるんだからね。こいつは、人間とそっくりのロボットなんだよ。自分で、かってに動きまわることもできるし、話をすることもできる。人間とちっともちがわないのだよ。だから、わしはロボットと呼ばないで、鉄人といっているのだ。」

北見君は、それを聞くと、なんだか、きみが悪くなってきました。

「機械で動くのですか?」

「うん、機械だ。しかし、いままでのロボットの機械とは、まるでちがっているのだよ。そこが、わしの発明なのだ。もう、何から何まで、生きた人間と、そっくりなんだからね。あいつには名前もある。キューというのだ。ハハハハハ……。みょうな顔をしているね。キューがわからないかね。英語のQだよ。わしがそういう名をつけてやったのだよ。いいかね。いま、呼んでみるから、見ておいで……。キューよ、ここへ来なさい。」

おじいさんが、そういったかと思うと、ギリギリギリギリ……と、歯車のまわるような音がして、鉄の人間が、こちらへ、近づいてくるではありませんか。

人間のとおりに、足を動かして、歩いてくるのです。そして、おじいさんの前までくると、ぴたりと立ちどまって、ギリギリギリと、上半身を曲げて、ていねいに、おじぎをしました。

「ほら、ごらん。からだは鉄でできているが、このとおり、洋服を着せて、靴をはかせてあるから、人間とそっくりだ。この顔も、鉄にえのぐがぬってあるんだよ。」

おじいさんは、そういって、鉄人の顔を、爪の先で、コツコツと、たたいてみせました。

かたい音がします。

それにしても、なんて、うまくいろどったものでしょう。いくらか黄色みのある顔色といい、耳も、目も、鼻も、口も、まるで生きているようです。

「目をまばたくことも、口をあくこともできるんだよ。Qよ、まばたきをして見せなさい。」

すると、鉄人の目が、パチパチと、まばたきをしました。

「なにか、ものをいってみなさい。おまえはなんという名だね。」

すると、鉄人の赤いくちびるが、パクパクと動いて、

「わたしは、キュー、です。」

と、へんな声で、答えたではありませんか。なんだか、電話の声のような感じです。この鉄の人形のおなかの中で、テープレコーダーが、まわってでもいるのでしょうか。

北見君は、こわくなって、からだが、ブルブルふるえてきました。

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