Chapter 1 of 1

Chapter 1

とさつ場のようにむんむんとしたいきれ、悪臭がふんと鼻したにたれてくる。ひとつひとつの寝台が継歯のように波立っている。堂々と街ののど笛に背筋を暗く震わしている鉄筋コンクリトの四階建。まるで寄生蟹のように茶溜小屋でうごめいている宿泊人の群、どぶ酒くらったずくさい息をはきながら

遠く北海道の釧路のかんごく部屋からにげてきたという北海熊、朝鮮のはしから渡ってきた韓、十二のとしに九州から売られ歩いてきたやもめ源、白いめしが食えねえで津軽から追われてきた勝おじいいたるところの郷々からこの街へ裸一貫で流れ踏んでゆくおとこたち。

どろどろととけたように空気のしめった部屋十しょくの光りが冷めたそうにおとこたちの胸板をてらしているなかみのこみでたせんべ布団ぎしぎしと骨をつきさすように鳴る寝台じみじみとうごいて、とまりもののからだにくらいついて血をすすっているしらみ、おちおちと朝までねいられない新米ども、ここを根じろにしている市井のごろつきども。

火のような市街をよそにしんしんとした夜が共同宿泊所をつつむうつふせ死んだようにねいっているおとこたち部屋部屋にメタンガスのような体臭を嗅ぎ、薄っぽい乳汁のようないびきが、萎びたからだにおのれの心臓にきびしくうちたたきながら。

氷のかちかち凍ったくろい三百のあたま。

――今よいもあそこに寝ているだろう友山本敏男におくる――

(一九三五年一月十日作 『詩精神』同年四月号に発表 一九三六年一月前奏社刊『一九三五年詩集』を底本)

●図書カード

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