一 進化の大法則を無視する勿れ
吾人はその天上より落下する隕石の如く、独り忽然としてこの地上に現出したものではない。吾人の前にも無限の連絡あれば、吾人の後ろにも無限の連絡がある。吾人の吐く息、吸う息は、直ちにこの渾円球を包む大気と連絡して、それと一体を為すものであるが如く、吾人の渺たるこの五尺の身体はまた上億万世の生物に連絡し、下億万代の人類に連絡するもの、即ち吾人は冥にして窮むべからざる無限のタイムを一貫する長き長き連鎖の中の一体を成すものであって、それには動かすべからざる進化の大法が厳重にこれを支配しているのである。即ち吾人の身体にはこれを電気といわんか、はた磁気といわんか、一種不可思議なる勢力を秘むる神経組織が存在し、これがことごとく脳細胞に作用して、ここに霊妙なる精神活動を現出するが、かくの如き脳細胞は、吾人を待って初めて存在したものでなく、祖先以来遺伝し発達し来ったところのもので、さればその個人的なるにせよ、はた社会的なるにせよ、この中枢たる脳細胞を活動せしめて開展したる吾人の万般の事業は、また等しく祖先以来継承し発達し来ったところのものでなければならぬ。換言すれば、現存する吾人の事業の一切は、ことごとく進化の理法に依って開展し来れる祖先の事業の集積なんである。我輩は保守を厭う。勿論進歩を愛するけれども、上述の如く水に漂う蓴菜の一葉も、これを引けば千根万根錯綜して至るにも似たる長き連鎖の中に在るものであるから、およそ如何なる制度、文物、倫理、道徳、風俗、習慣というの類といえども、その由って来るところを密にして、現在並びに将来に於ける利害得失を究めて、然る後に徐にその向うところを定めなければならぬ。然らずんば形こそ急激なる革新であっても、その革新の進歩ならずして、往々退歩なるべきことを免れぬ。我輩は特に、人類に至重至要なる男女関係についてこれを言う。