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古事記 02 校註 古事記
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古事記 02 校註 古事記
太安万侶
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Chapter 3 of 23

〔二、天照らす大神と須佐の男の命〕

〔誓約〕

かれここに速須佐の男の命、言したまはく、「然らば天照らす大御神にまをして罷りなむ」と言して、天にまゐ上りたまふ時に、山川悉に動み國土皆震りき一。ここに天照らす大御神聞き驚かして、詔りたまはく、「我が汝兄の命の上り來ます由は、かならず善しき心ならじ。我が國を奪はむとおもほさくのみ」と詔りたまひて、すなはち御髮を解きて、御髻に纏かして二、左右の御髻にも、御鬘にも、左右の御手にも、みな八尺の勾の五百津の御統の珠三を纏き持たして、背には千入の靫四を負ひ、平五には五百入の靫を附け、また臂には稜威の高鞆六を取り佩ばして、弓腹振り立てて、堅庭は向股に蹈みなづみ、沫雪なす蹶ゑ散して、稜威の男建七、蹈み建びて、待ち問ひたまひしく、「何とかも上り來ませる」と問ひたまひき。ここに速須佐の男の命答へ白したまはく、「僕は邪き心無し。ただ大御神の命もちて、僕が哭きいさちる事を問ひたまひければ、白しつらく、僕は妣の國に往なむとおもひて哭くとまをししかば、ここに大御神汝はこの國にな住まりそと詔りたまひて、神逐ひ逐ひ賜ふ。かれ罷りなむとする状をまをさむとおもひて參ゐ上りつらくのみ。異しき心無し」とまをしたまひき。ここに天照らす大御神詔りたまはく、「然らば汝の心の清明きはいかにして知らむ」とのりたまひしかば、ここに速須佐の男の命答へたまはく、「おのもおのも誓ひて子生まむ八」とまをしたまひき。かれここにおのもおのも天の安の河九を中に置きて誓ふ時に、天照らす大御神まづ建速須佐の男の命の佩かせる十拳の劒を乞ひ度して、三段に打ち折りて、ぬなとももゆらに一〇、天の眞名井一一に振り滌ぎて、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名一二は、多紀理毘賣の命、またの御名は奧津島比賣の命といふ。次に市寸島比賣の命、またの御名は狹依毘賣の命といふ。次に多岐都比賣の命一三三柱。速須佐の男の命、天照らす大御神の左の御髻に纏かせる八尺の勾珠の五百津の御統の珠を乞ひ度して、ぬなとももゆらに、天の眞名井に振り滌ぎて、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、正勝吾勝勝速日天の忍穗耳の命一四。また右の御髻に纏かせる珠を乞ひ度して、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、天の菩卑の命一五。また御鬘に纏かせる珠を乞ひ度して、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、天津日子根の命一六。また左の御手に纏かせる珠を乞ひ度して、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、活津日子根の命。また右の御手に纏かせる珠を乞ひ度して、さ齧みに齧みて、吹き棄つる氣吹の狹霧に成りませる神の御名は、熊野久須毘の命一七(并はせて五柱。)

ここに天照らす大御神、速須佐の男の命に告りたまはく、「この後に生れませる五柱の男子は、物實我が物に因りて成りませり。かれおのづから吾が子なり。先に生れませる三柱の女子は、物實汝の物に因りて成りませり。かれすなはち汝の子なり」と、かく詔り別けたまひき。

かれその先に生れませる神、多紀理毘賣の命は、※形の奧津宮一八にます。次に市寸島比賣の命は※形の中津宮にます一九。次に田寸津比賣の命は、※形の邊津宮にます。この三柱の神は、※形の君等がもち齋く三前の大神なり。

かれこの後に生れませる五柱の子の中に、天の菩比の命の子建比良鳥の命、こは出雲の國の造、无耶志の國の造、上つ菟上の國の造、下つ菟上の國の造、伊自牟の國の造、津島の縣の直、遠江の國の造等が祖なり。次に天津日子根の命は、凡川内の國の造、額田部の湯坐の連、木の國の造、倭の田中の直、山代の國の造、馬來田の國の造、道の尻岐閇の國の造、周芳の國の造、倭の淹知の造、高市の縣主、蒲生の稻寸、三枝部の造等が祖なり。

一 暴風の襲來する有樣で、歴史的には出雲族の襲來を語る。

二 男裝される。

三 大きな曲玉の澤山を緒に貫いたもの。曲玉は、玉の威力の發動の思想を表示する。

四 千本の矢を入れて背負う武具。

五 胸のたいらな所。

六 威勢のよい音のする鞆。トモは皮で球形に作り左の手にはめて弓を引いた時にそれに當つて音が立つようにする武具。

七 威勢のよい叫び。

八 神に誓つて神意を伺う儀式。種々の方法があり夢が多く使われる。ここは生まれた子の男女の別によつて神意を伺う。

九 高天の原にありとする川。滋賀縣の野洲川だともいう。明日香川の古名か。

一〇 玉の音もさやかに。

一一 神聖な水の井。

一二 以上の行爲は、身を清めるために行う。劒を振つて水を清めてその水を口に含んで吐く霧の中に神靈が出現するとする。以下は劒が玉に變つているだけ。

一三 以上の三女神は福岡縣の宗像神社の神。

一四 皇室の御祖先と傳える。

一五 出雲氏等の祖先。

一六 主として近畿地方に居住した諸氏の祖先。各種の系統の祖先が、この行事によつて出現したとするのは民族が同一祖から出たとする思想である。

一七 出雲の國の熊野神社の神。

一八 福岡縣の海上日本海の沖の島にある。

一九 福岡縣の海上大島にある。

〔天の岩戸〕

ここに速須佐の男の命、天照らす大御神に白したまひしく、「我が心清明ければ我が生める子手弱女を得つ一。これに因りて言はば、おのづから我勝ちぬ」といひて、勝さび二に天照らす大御神の營田の畔離ち、その溝埋み、またその大嘗聞しめす殿に屎まり散らしき三。かれ然すれども、天照らす大御神は咎めずて告りたまはく、「屎なすは醉ひて吐き散らすとこそ我が汝兄の命かくしつれ。また田の畔離ち溝埋むは、地を惜しとこそ我が汝兄の命かくしつれ」と詔り直したまへども、なほその惡ぶる態止まずてうたてあり。天照らす大御神の忌服屋四にましまして神御衣織らしめたまふ時に、その服屋の頂を穿ちて、天の斑馬を逆剥ぎに剥ぎて墮し入るる五時に、天の衣織女見驚きて梭六に陰上を衝きて死にき。かれここに天照らす大御神見畏みて、天の石屋戸七を開きてさし隱りましき。ここに高天の原皆暗く、葦原の中つ國悉に闇し。これに因りて、常夜往く八。ここに萬の神の聲は、さ蠅なす滿ち、萬の妖悉に發りき。ここを以ちて八百萬の神、天の安の河原に神集ひ集ひて、高御産巣日の神の子思金の神九に思はしめて、常世の長鳴鳥一〇を集へて鳴かしめて、天の安の河の河上の天の堅石を取り、天の金山の鐵を取りて、鍛人天津麻羅を求ぎて、伊斯許理度賣の命に科せて、鏡を作らしめ、玉の祖の命に科せて八尺の勾の五百津の御統の珠を作らしめて天の兒屋の命布刀玉の命を召びて、天の香山の眞男鹿の肩を内拔きに拔きて一一、天の香山の天の波波迦一二を取りて、占合まかなはしめて一三、天の香山の五百津の眞賢木を根掘じにこじて一四、上枝に八尺の勾の五百津の御統の玉を取り著け、中つ枝に八尺の鏡を取り繋け、下枝に白和幣青和幣を取り垂でて一五、この種種の物は、布刀玉の命太御幣と取り持ちて、天の兒屋の命太祝詞言祷ぎ白して、天の手力男の神一六、戸の掖に隱り立ちて、天の宇受賣の命、天の香山の天の日影を手次に繋けて、天の眞拆を鬘として一七、天の香山の小竹葉を手草に結ひて一八、天の石屋戸に覆槽伏せて一九蹈みとどろこし、神懸りして、※乳を掛き出で、裳の緒を陰に押し垂りき。ここに高天の原動みて八百萬の神共に咲ひき。

ここに天照らす大御神怪しとおもほして、天の石屋戸を細に開きて内より告りたまはく、「吾が隱りますに因りて、天の原おのづから闇く、葦原の中つ國も皆闇けむと思ふを、何とかも天の宇受賣は樂し、また八百萬の神諸咲ふ」とのりたまひき。ここに天の宇受賣白さく、「汝命に勝りて貴き神いますが故に、歡喜び咲ひ樂ぶ」と白しき。かく言ふ間に、天の兒屋の命、布刀玉の命、その鏡をさし出でて、天照らす大御神に見せまつる時に、天照らす大御神いよよ奇しと思ほして、やや戸より出でて臨みます時に、その隱り立てる手力男の神、その御手を取りて引き出だしまつりき。すなはち布刀玉の命、尻久米繩二〇をその御後方に控き度して白さく、「ここより内にな還り入りたまひそ」とまをしき。かれ天照らす大御神の出でます時に、高天の原と葦原の中つ國とおのづから照り明りき。ここに八百萬の神共に議りて、速須佐の男の命に千座の置戸を負せ二一、また鬚と手足の爪とを切り、祓へしめて、神逐ひ逐ひき。

一 自分が清らかだから女子を得たとする。日本書紀では反對に、男子が生まれたらスサノヲの命が潔白であるとしている。古事記の神話が女子によつて語られたとする證明になるところ。オシホミミの命の出現によつて勝つたとするのが原形だろう。

二 勝にまかせて。

三 田の畦を破り溝を埋め、また御食事をなされる宮殿に不淨の物をまき散らすので、皆暴風の災害である。

四 清淨な機おり場。

五 これも暴風の災害。

六 機おる時に横絲を卷いて縱絲の中をくぐらせる道具。

七 イハは堅固である意を現すためにつけていう。墳墓の入口の石の戸とする説もある。

八 永久の夜が續く。

九 思慮智惠の神格化。

一〇 鷄。常世は、恒久の世界の義で、空想上の世界から轉じて海外をいう。

一一 香具山の鹿の肩の骨をそつくり拔いて。

一二 樹名、カバノキ。これで鹿骨を燒く。

一三 占いをし適合させて。卜占によつて祭の實行方法を定める。

一四 香具山の繁つた木を根と共に掘つて。マサカキは繁つた常緑木で、今いうツバキ科の樹名サカキに限らない。神聖な清淨な木を引く意味で、山から採つてくる。

一五 サカキに玉と鏡と麻楮をつけるのは、神靈を招く意の行事で、他の例では劒をもつける。シラニギテはコウゾ、アヲニギテはアサ。

一六 力の神格。

一七 ヒカゲカズラを手次にかけ、マサキノカズラをカヅラにする。神がかりをするための用意。

一八 小竹の葉をつけて手で持つ。

一九 中のうつろの箱のようなものを伏せて。

二〇 シメ繩。出入禁止の意の表示。

二一 罪を犯した者に多くの物を出させる。

Chapter 3 of 23
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