Chapter 1 of 1

Chapter 1

ある田舎に、二郎という子供がありました。よく隣の家へ遊びにゆきました。

その家には、二郎といっしょになって、遊ぶような子供はなかったけれど、女房は、二郎をかわいがってくれました。

「おばさん、あの赤いかきの葉をとっておくれよ。」と、二郎は、裏にあったかきの葉をさしていうと、女房は、仕事をしながら、

「いま、これが終えたら、取ってあげますよ。」

と答えて、仕事がすむと、さおを持ってきて、二郎のほしいというかきの葉を取ってくれたこともあります。

「おばさん、つるを折っておくれよ。」と、二郎は頼むと、女房は、

「はい、はい、いまこれがすむと折ってあげますから待っておいでなさいね。」といいました。

二郎は、女房の仕事をしているそばで、おとなしく遊んでいました。そして、おりおり、その方を見ては、

「おばさん、まだかい。」と、催促をしたのであります。

女房の家は、貧しかったのであります。主人は、行商をして、晩方、暗くならなければ帰ってこなかったのでした。せがれは、旅へ奉公にやられて、女房は、主人の留守も家でいろいろな仕事をしたり、手内職に封筒を貼ったりしていたのでした。

「おまえは、よくお隣へゆくが、おかみさんの仕事の邪魔をしてはいけないよ。」と、おばあさんは、二郎にいい聞かせたのです。

しかし、二郎は、隣へ遊びにゆきました。ゆけば、人のよい女房は、

「二郎ちゃん、遊びにきたのかね。」といって、心持ちよく迎えてくれました。そして、二郎が遊びに飽きて帰ろうとすると、

「転ばんように、お帰り。また、遊びにきなさいね。」と、いってくれたのであります。

秋も老けて、末になると、いつしかかきの木は坊主になってしまって、寒い木枯らしが、昼も夜も吹きさらしました。そして、日は短くなって、昼になったかと思うと、じきに晩となり暗くなったのでした。

からすが、悲しそうに鳴いて、村の中はさびしげに見え、とうとう雪の降る冬になってしまいました。

雪が降って、地の上に積もると、二郎は、外へ出て遊ぶことができないから、いままでよりも、もっとたびたび、隣の家へ遊びにゆくようになりました。

女房は、明るい、障子窓の下へ、箱を置いて、それを台にして、上で封筒を貼っていました。日が当たると、屋根の雪が解けて、ポトリポトリと音をたて、障子に黒い影をうつして落ちるのでした。二郎は、げたについた雪を、入り口の柱でたたいて、落としてから、

「おばさん……。」といって、入ってきました。

二郎のおばあさんは、あまり、たびたび二郎が、隣へいって邪魔をするので、

「二郎や、いくら、お隣のおかみさんは、いい人でも、そう毎日いっては、しまいにきてくれるなというから、あまりゆくのじゃない。」といいました。

「おばあさん、おかみさんは、いやな顔なんかしないよ。」と、二郎は答えました。

「それは、いけば、いやな顔なんかしないけれど、心の内では、毎日、仕事の邪魔をしてうるさい子だと思っていなさるだろう……。」と、おばあさんはいいました。

ちょうど、その明くる日のことです。二郎は静かに足音のしないように、隣の家の入り口からはいってゆきました。

「おかみさんは、どんな顔をしているだろう?」と、二郎は、思ったからです。

二郎は、玄関の障子の穴から、おかみさんの仕事をしている方をながめました。そして、びっくりしました。それは、いつものやさしい女房でなく、怖ろしい、三つ目の化けものが、箱の前にすわって仕事をしていたからです。

二郎は、家へ走り帰ってこたつの中へもぐり込んで、小さくなっていました。

「二郎や、どうかしたか? おかみさんにしかられでもしたのだろう……。」と、おばあさんは、笑いながらいわれました。

二郎は、不思議なことがあればあるものだと思った。

「おばあさん、隣のおかみさんは、三つ目のお化けにばけていたよ。」といいました。

「おまえは、なにをいう?」と、おばあさんは、やはりこたつに当たりながら、笑っていわれました。

「おばあさん、うそでない、ほんとうだから。」と、二郎は、こういいながら、なおも怖ろしがってふとんを頭からかぶっていました。

「おまえが見たのなら、お化けかもしれない。」

「そんなら、隣のおかみさんは、お化け?」

「なんともいえない。」と、おばあさんは、笑いました。

「どうして、隣のおかみさんは、お化けなの?」と、二郎はおばあさんに、しつこくたずねました。

「おまえが見たというからさ。あまりたびたびゆくと、お化けに食べられるから、もうゆかないほうがいい。」と、おばあさんはいわれました。

二郎は、翌日から、隣へ遊びにいかなくなりました。そして、家にばかりいて、おばあさんを相手にいろいろなことをねだったり、わがままをいいました。おばあさんは、困って、

「二郎や、すこし、お隣へでもいって遊んでこい。このごろは、ちっとも隣へいかないのう。」といわれました。

おばあさんがいけといわれても、二郎は、どうしてもゆく気になりませんでした。そして、いつか三つ目の化けものが、箱の前にすわって仕事をしていたことを思い出すと、ぞっと身の毛がよだったのでした。

いままで、毎日のように、二郎が遊びにきたのに急にこなくなったので、隣の女房はどうしたのだろうと思いました。それで、ある日、二郎の家へきたときに、おばあさんにそのことをたずねました。おばあさんは、いつか、二郎が、いったとき、おかみさんでなく、三つ目の化けものが、仕事をしていたといって、それから、いかないようです、と答えたのです。

すると、隣のおかみさんは、声をたてて笑いました。

「町へいったとき、二郎ちゃんに上げようと思って買ってきた面を、もう遊びにきなさるころだと思ってかぶって仕事をしていたのを、二郎ちゃんが見て、びっくりなさったのですよ。」と、おかみさんはいいました。

この話で、みんなが大笑いをしました。やがて、春になりました。子供は外へ出て遊ぶようになり、二郎は、その年から学校へゆくことになりました。そして、しぜん、隣の家へもいままでのように、たびたびゆかなくなったのであります。

●図書カード

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