Chapter 1 of 1

Chapter 1

さびしい片田舎に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

ある日、都にいるせがれのところから、小包がとどいたのです。

「まあ、まあ、なにを送ってくれたか。」といって、二人は、開けてみました。

中から、肉のかん詰めと果物と、もう一つなにかのかん詰めがはいっていました。

「これは、おいしそうなものばかりだ。」といって、二人は喜びました。

夕飯のときに、おじいさんは、

「どれ、せがれが送ってよこした、かん詰めを開けようじゃないか。」と、おばあさんにいいました。

おばあさんは、三つのかん詰めを膳のところへ持ってきて、

「どれにしましょうか。」と、おじいさんにたずねました。

「そちらの小形の赤いかんは、なんだろうな。」と、おじいさんは、いいました。

おばあさんにも、よく、それがわかりませんでした。

「なにか、外国の文字が書いてありますが……。」といって、おじいさんに手渡しました。

おじいさんも、手に取ってみたが、やはりわかりませんでした。

「どんなものか、これをひとつ開けてみよう……」といいました。

たとえ、年を取っても、やはり、珍しいものにはいちばん興味を覚えるものです。

おじいさんは、そのかんのふたを開けました。すると香ばしいかおりがしたのです。

「粉じゃ、なんの粉だろう……。」と、頭をかしげました。

こんどは、おばあさんが、その赤いかんを取って、香いを嗅いだのであります。

「おじいさん、これは、やはり麦を挽いた粉ですよ。うちのせがれは、子供の時分から、不思議な子で、こうせんが大好きだったから、こんなものを送ってよこしたのですよ。」と、おばあさんはいいました。

「飯にでもかけて食べるのかな。」

「きっと、そうするのでございますよ。」

おじいさんと、おばあさんは、その赤黒い粉を飯にかけて食べました。しかし、その香いほど、あまり、うまくはありません。

「砂糖をまぜなければならぬだろう。」と、おじいさんがいいました。

「これは、子供の食べるものですね。」と、おばあさんはいいながら、立って、砂糖を持ってきました。そして、二人は、飯にかけて食べました。

夜になって、二人は、いつものごとく床につきました。けれど、どうしたことか、目がさえて眠れませんでした。

「ああ、こうせんを食べたので、胸がやけたとみえて眠れない。」と、おじいさんがいいますと、

「外国のものは、体に合わないから、食べるものでありませんね」と、おばあさんは、答えました。

二人は、やっと眠りつきましたが、いろいろの夢を見ました。

おじいさんは、まだ元気で、河へ釣りにいった夢を見たり、おばあさんは、まだ若くて、みんなと花見にいったことなどを夢に見ました。

翌日、二人は、あの赤いかんの中の粉を捨ててしまおうかと話をしていました。そこへ、小包よりおくれて、せがれから、手紙がとどきました。

その手紙によると、赤いかんにはいっているのは、ココアというものであることがわかりました。田舎に住んでいるおじいさんや、おばあさんには、まだそうした飲み物のあることすら知らなかったのです。

「こんなものを、なんで私たちが知ろうか。」といって、おじいさんと、おばあさんは、顔を見合わせて笑いました。

――一九二六・一一――

●図書カード

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