Chapter 1 of 3

せみ

B坊が、だれかにいじめられて、路の上で泣いていました。

「どうしたの?」と、わけをきくと、こうなのであります。

A坊と、B坊は、いっしょに遊んでいたのです。すると、みんみんぜみが飛んできて、頭の上の枝に止まりました。

二人は、家に走っていって、もち棒を持ってこようとしました。すると、日ごろから、強い、わんぱく子のA坊が、

「これは、僕のせみだから逃がしちゃいけないよ。番をしていておくれ。」と、命ずるように、B坊に向かっていいました。

清水良雄・絵

気の弱いB坊は、たとえ内心では、それを無理と感じても、だまって、うなずくよりほかはなかったのです。

「どうか、Aちゃんのくるまで、みんみんぜみが、逃げてくれなければいいが……。」と、B坊は、心配していました。なぜなら、もし、せみが、逃げたら、きっとA坊は、自分のせいにすると思ったから。

B坊は、上を向いて、せみを見守りながら、身動きもせず、じっとしていました。せみは、つづけて、ミン、ミン、ミン――と鳴きました。そして、鳴きやむと、思い出したように、遠方を目がけて、飛び去ってしまいました。うらめしそうに、B坊は、しばらく、飛び去ってしまったせみの行方を見守っていました。

そのとき、もち棒を持ったA坊が、息をきらしながら、あちらから駆けてきました。

「Bちゃん、せみはいる?」と、遠くから、こちらを見て叫びました。B坊は、なんとなく、すまなそうな顔つきをして、頭をふり、

「逃げてしまった。」と、答えました。

「うそだ! 君が、逃がしたのだろう……。」と、A坊は、すぐ、そばにくると難題をいいかけました。

「僕が、逃がしたのではないよ。」と、B坊は、あまりのA坊の邪推に、不平を抱きました。

「君は、番をしているといったじゃないか?」

B坊は、たしかにそういったから、だまっていました。

「君は、番をしているといったろう。このうそつき!」

こういって、A坊は、B坊をなぐったのです。

――話はこういうのでした。さあ、どちらに真理がありましょう?

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