Chapter 1 of 3

海の近くに一軒の家がありました。家には母親と娘とがさびしく暮らしていました。けれど二人は働いて、どうにかその日を暮らしてゆくことができました。

父親は二年前に、海へ漁に出かけたきり帰ってきませんでした。その当座、たいへんに海が荒れて、難船が多かったといいますから、きっと父親も、その中に入っているのだろうと悲しみ嘆きました。

けれど、また、遠いところへ風のために吹きつけられて、父親はまだ生き残っていて、いつか帰ってくるのではないかというような気もしまして、二人は、おりおり海の方をながめて、あてなき思いにふけっていました。

「お母さん、お父さんは死んでしまわれたんでしょうか。」と、娘は目に涙をためて、母親に問いますと、

「いまだにたよりがないところをみると、きっとそうかもしれない。」と、母親も、さびしそうな顔つきをして答えました。

「ほんとうに、お父さんが生きていて帰ってきてくだされたら、どんなにうれしいかしれない。」と、娘はいいました。

「生きていなされば、きっと帰ってきなさるから、そう心配せずに待っていたほうがいい。」と、母親は娘をなぐさめました。

娘は昼間仕事に出て、日が暮れかかると家に帰ってきました。窓を開けると、かなたに青い海が見えました。静かに、海のかなたが、赤く夕焼けがして暮れてゆくときもあります。また、灰色に曇ったまま暮れてゆくときもあります。またあるときは、風が吹いて、海の上があわだって見えるときもありました。

月のいい晩には、往来する船も、なんとなく安全に思われますが、海が怒って、真っ暗な、波音のすさまじいときには、どんなに航海をする船は難儀をしたかしれません。

そんなとき、娘はきっと父親のことを思い出すのでありました。もし父親が、こんな嵐の強い晩に、海をこいで帰ってこられたなら、方角もわからないので、どんなにか難儀をなされるだろうと、こう考えると、娘はもはや、じっとしていることができませんでした。立ち上がって、窓からいっしんに沖の方を見つめていました。

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