Chapter 1 of 5
一
ある高原の避暑地。落葉松の森を背にしたテニスコートの傍ら。日が落ちて、橙色の雲の一塊が、雪をいたゞいた遠い峰を覆つてゐる。今テニスを終つたばかりの四人、そのうちの女二人は境笛子と母の杉江である。そして、二人の青年は、金津朔郎と酒巻深である。
酒巻 明日は敵を打ちませうね。笛子さん。笛子 明日は組を変へるんだわ。杉江 母さんと組まなくつちや駄目だよ。金津 小母さんに睨まれてると、うつかりしたことはできないからなあ。杉江 また雷が来さうね。昨夜はなんてひどかつたんでせう。酒巻 でいよいよ、明後日お帰りですか。杉江 ひとまづね。だつて、パパ一人を、あんまり淋しい目にあはせることできませんもの、ねえ笛子……。笛子 パパが――こつちへいらつしやればいゝんだわ。杉江 それがおできになれないんだから仕方がないさ。酒巻 鎌倉にだつてコートはあるでせう。笛子 どうせホテルなんだから、あつてよ。杉江 あなた方もあつちへおいでなさいな。金津 ひとつ、おやぢに談判してやらう。酒巻 僕んとこは、お袋が海は嫌ひなんだから、駄目だ。