Chapter 8 of 42
庭園の食卓
青き果のかげにわれらが食卓をしつらへよ、春を惜むわかき日のこころよ
一
あひびきの朝な夕なにちりそめし鬱金ざくらの花ならなくに
二
サラダとり白きソースをかけてましさみしき春の思ひ出のため
さくらんぼいまださ青に光るこそ悲しかりけれ花ちりしのち
三
青き果のかげに椅子よせ春の日を友と惜めば薄雲のゆく
酒注げば黄なる薄雲桐の木の木の間に見えて夏は来にけり
四
かなしげに春の小鳥も啼き過ぎぬ赤きセエリーを君と鳴らさむ
燕、燕、春のセエリーのいと赤きさくらんぼ啣え飛びさりにけり
五
ああ五月蛍匍ひいでヂキタリス小さき鈴ふるたましひの泣く
金口の露西亜煙草のけむりよりなほゆるやかに燃ゆるわが恋
六
やはらかに誰が喫みさしし珈琲ぞ紫の吐息ゆるくのぼれる
よき椅子に黒き猫さへ来てなげく初夏晩春の濃きココアかな
七
蟾蜍が出て来た、皆で寄つてたかつて胡椒をふりかけたり、スープを飲ませたりした
しろがねの小さき匙もて蟾蜍スープ啜るもさみしきがため
八
干葡萄ひとり摘み取りかみくだく食後のほどをおもひさびしむ
カステラの黄なるやはらみ新らしき味ひもよし春の暮れゆく
九
昼餐どきはてしさびしさ春の日も紅茶のいろに沈みそめつつ
まひる野の玉葱の花紫蘇の花かろく哀しみ君とわかるる