初夏北越行
昭和四年六月、新潟、今町、国上、出雲崎各地に遊ぶ。吟懐三十四首。
初夏北越行
新潟
夏すでに砂丘の光おぎろなし弘法麦の筆の穂のいろ
砂山の茱萸の藪原夏まけて花了りけり真砂積む花
海荒く砂丘のい照り涯し無し燈台が見ゆ赤き燈台
港には装ましろき船いくつ夏はさやかに雲流れ見ゆ
松原、日光療院裏にて
数珠茅に夕づく日ざし柔らなり穂のまだ伸びぬ青き数珠茅
北越沿線
挙り出るこの国原の田植どき植うるかぎりが田にとよみつつ
挙り出て苗ひき植うる田植笠早やおもしろしうなかぶしつつ
日おもてのたも木に霧らふ夏がすみ植うる田も見ゆ早苗田も見ゆ
山里は家の南の田竝びを皆出て居らし植ゑそめにけり
今町郊外
弥彦の夏山霞ただならず国上は末にうち低みつつ
おほかたは田を植ゑ竝めぬ道の手にたもの若葉の照り交ふ見れば
赤々とこくれんぐわしの毛は垂れて田へ行く子らに朝そよぐなり
註、こくれんぐわしは唐もろこしの方言。
国上行
草繁き山いくつある小峡とて蛙のこゑのよくひびきつつ
乙宮のおもての田居に鳴く蛙日光しづけき山片附けば
かへるでのさ青の明りにうつら来る植女がひとりまろき菅笠
山方は国上へかかる道の端にぬきて竝べぬ涼し早稲苗
植ゑそめて山田の畔の昼餉どき童らとよみ早やあがり来る
あしびきの山田の田居に日竝下り隣り植ゑたり田竝びの友
あな清け小田の山田は植ゑなめて目にもみどりの風そよぐなり
ゆきかへり見つつましけむ国つぶり揺りおもしろき田うゑ菅笠
ありやとも求め来て思ふ道の端に君が置きたる黒き鉢の子
五合庵の蹟にいたる
国上山のぼりつつ来し杉むらを松風の音ぞ吹きしづみたる
蔭山の夏の小峡の桐の花咲きにけるかも群杉が木間
国上の片山蔭の桐のはな遠く蛙の鳴くがしづけさ
まさしく閑けかりけり桐の花の咲きあかる上に松の音して
風そよぐ板屋楓の二三もとここの庵も夏いたりけり
山かげの君がいほりの跡どころ楓あかれり青蛙鳴き
早稲田には雨けぶるらし真木山のこの見おろしも蛙鳴きつつ
出雲崎良寛堂
出雲崎は良寛堂の夕つかた網かいひろげ人かがみ居る
出雲崎夕浪明し我がひとり君がみ堂に詣でゐにけり
一色とうしろに蒼き夏の潮角の御堂はいつくしくして
この御堂夕かげながら詣で来て廂のつまの反りのすずしさ
この御堂夕照りあかし穏しくはしづけさのかぎりたもちたらなむ
出雲崎この夕凪のはるかには日かげ現しき佐渡ヶ嶋見ゆ