Chapter 1 of 1
Chapter 1
とある家の垣根から
蔓草がどんなにやさしい手をのばしても
あの雲をつかまえることはできない
遠いのだ
あんなに手近にうかびながら
とある木の梢の
終りの蝉がどんなに小さく鳴いていても
すぐそれがわきかえるような激しさに変る
鳴きやめたものがいつせいに目をさますのだ
町の曲り角で
田舎みちの踏切で
私は立ち止つて自分の影を踏む
太陽がどんなに遠くへ去つても
あの日石畳に刻みつけられた影が消えてしまつても
私はなお強く 濃く 熱く
今在るものの影を踏みしめる
●図書カード