Chapter 1
「おお源造よ 帰って来たか」つまごをはき、雪路を踏んで、馬橇の上で別れて行ったあの日、「俺あクジ逃れだ、俺には只一人のお母がいる、お母はおいぼれ……」「でも源造よ、お上はお前や俺等のために、どうにもなんめいぞ、誰ぞと代って下されと、あれ程ねがったんだに 仕方のねい世の中だ 諦められない世の中よ そんだば、元気で行ってこう 源造よ、元気でだぞお!」
戦争におびやかされ戦争は明日にもあるらしい『戦争が初まったら……』将校は勲章をかぞえ、拍車を磨き、サーベルをさすっていたそして精神講話に武士道の物語りをのべた。支那が戦場の夢に出て、ロシアが理屈で出しゃばり出す、地図のアジアは将校の馬蹄にじゅうりんされ夢将校の栄誉は未来永劫。
二年目に帰ってきた源造、帰れば部落は積雪の下霜枯れた草木の眠れる山野雪路を踏み、馬橇の上、「おお源造、お前は上等兵かよ」「ええ俺あ二等卒だよ」
血書血判で兵隊になりたい奴もある世の中、(不景気だからな 兵隊になりゃ喰うだけ喰えるからよ)
源造よお前は知ってるか今年は豊作だなんてどこのどいつの宣伝だかあの稲束を見て見ろやあんでも豊作だと どの野郎だたとえ豊年万作だとて俺等の楽する秋があったか?どこのどいつが何するために俺等の米は奪り上げる!源造よお前は村へ帰った兵隊さんだお前はその訳知ってべよ
俺あ営舎じゃガン張ったよ俺あ三十九度の熱が出てどうにもこうにもなんねい位そんでも俺あ将校奴の長靴を磨かされたびしょ雨の中に空ッ腹を抱えて真夜中の強行軍だ何でこんなに戦争がやりたいのか?誰と誰との戦争がほんとに必要なのか?誰も彼も、最初は知らずにいる――知れたらこれこそ大変だ!そいつをカンゴクの兄貴は知ってたんだ今は俺あも知ってる、あいつも知ってる兄貴の知ってるロシアの話。俺あ今こそそいつがのみこめる不景気だどん底へ落ちて行く百姓、それからプロレタリア――街の労働者達
源造よ部落じゃ、ネング、税金、借金まけろ!月給泥棒の俸給を下げろ支払延期、減免だ小学児童の同盟休校だ地鳴りのように反抗の叫びがもり上ってるそれでも十二月の年のくれの雪に埋もれた淋しい百姓の生活がどこまでも追われて行くんだ俺等の部落はお前の除隊を待ってた源造よお前はこれからしっかり奮張ってけれ!奴等がどないにしようともお前は俺等の戦争に加わるんだ!勇敢な俺等の兵隊で、一兵卒の軍服を着た百姓源造よガッチリと頑張ってけれ!兄貴がカンゴクで待ってべぞお!
●図書カード