Chapter 1 of 5

「あなたの方の出版協会というのはいつもゴタ/\揉めているようですが、どうしたというんですか?」

こういって訊ねる人もある。しかしそういう人はどういうものかおおむね素人に限られているようである。素人に解ってもらうのは並大抵のことではないし、内容が複雑すぎるものだから、心苦しいが言葉を濁していつも逃げるよりほかなかった。ところで不思議なことに、多少とも文化とか出版とかに関心を持っていそうな人は、何と思ってか余り問題にしないことである。たまたま話題に上る場合にも、「醜態」の一語に片づけてしまって歯牙にかけようとしないのである。

およそ世間では、問題の筋が通ってその核心が掴める間は話題にも上り論議もされるが、何が何だか訳が解らなくなると興味の関心からはずれて来るものらしい。民主再建の大切な事業をよそにして権力と利慾の争奪に終始しているような今の出版界の現状では、大抵の者が愛想をつかすのも無理はないと思う。私どもも終戦以来まる三年、随分根気よく我慢して来たつもりだが、とうとう我慢がしきれなくなって飛び出してしまった。飛び出したというより、ハミ出したという方が適当かも知れない。で、この機会に私は、戦時中われわれの受けた体験と戦後三年間の経過を基にして、日本出版協会がいかにあり、また如何にあらねばならないかを検討し、ややもすれば見失おうとするその正体を見極わめて見ようと思う。この国の知識人には見放され、読書人には軽蔑され、しかもわれわれ業界人をまでも置き去りにして、日本出版協会は果たしてどこへゆこうとしているのであろうか。

Chapter 1 of 5