Chapter 1 of 8
慈善家
5・1女性
男といふものは、郵便切手を一枚買ふのにも、同じ事なら美しい女から買ひたがるものなのだ。――故ウヰルソンの女婿 McAdoo 氏はよくこの事実を知つてゐた。
あるとき McAdoo 氏が、自分の関係してゐるある慈善事業のために、慈善市を催したことがあつた。氏はその売子のなかに幾人かの美しい女優を交へておくのを忘れなかつた。
その日になつて、氏が会場の入口を入らうとすると、そこには紀念の花束を売りつけようとして、四五人の若い女たちが客を待つてゐた。そのなかに一人づばぬけて美しい女優が交つてゐたが、その女はかねて顔馴染な McAdoo 氏を見ると、顔一杯に愛嬌笑ひを見せ乍らいち早く歩み寄つて来た。そしてきやしやな指先きに露の滴るやうな花束をとり上げて、
「あなた、お一つどうぞ……」
と、押しつけようとした。
McAdoo 氏はあぶなくそれを受取らうとして、ふと第二の売子の足音を聞いてその方にふり向いた。それは顔立も、服装も、見るから地味な婦人だつた。氏は急に考へをかへて、その婦人から花束を一つ買ひ取つた。
「あなた、なぜ私のを買つて下さらないの。」
女優は、わざとぷりぷりした顔をしてみせた。以前にも増してそれは美しかつた。地味な姿の売子が新しい来客の方へと急ぎ足に往つたのを見てとつた McAdoo 氏は、低声で女優に言つた。
「でも、あなたはあまりお美しいから。僕は今日はいつぱし慈善家になりおほせたいから、わざと地味な方のを選んで買ひました。」
この言葉は覿面だつた。女優はそれを聞くと、胸に抱へた花束をそつくりそのまま買ひ取られでもしたやうに、顔中を明るくして満足さうに笑つた。