Chapter 1 of 4

知多半島の東浦から西浦に越えて行く路は、今までにないほどの興味を私に誘つた。『知多半島ツて、こんなところかなア、こんなに面白い地形とは思はなかつた』私はかう独語した。

私は東浦の河和から車で越した。低山性の複雑した丘陵が、時には東を開き、南を開くといふやうな形を見せてゐたが、次第にのぼるにつれて、北も西もすつかり眼中に落ちて来た。その地平線の濶さ! 東浦も見えれば、西浦も見える。南の方には伊勢湾が開けて、その向うに朝熊が高くなつて見えてゐる。伊良湖の鼻と神島と相対してゐる形もよく見える。私はこの他に何処にこれほど濶い、これほど変化に富んだ大きなシインを見たであらうか。否、更に北には遠く常滑の土管工場が黒い煤烟を靡かせて、遙かに濃尾平野をさへ想像させたではないか。

『峠に行きますと、寒くなりますよ』

かう車夫は言つたが、果してその通りであつた。海を越した鈴鹿山脈には、雪が白く、右に偏つて尨大な伊吹山の半ば白くなつてゐるのが手に取るやうに見えた。

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