リヨン――シェネーフ(ジュネーヴ)Lyon――Genve
ローンを右に見る汽車の窓に、むら消えの雪の間に、霜げたがさすが若草か緑の牧も見えて、丘は赤瓦の百姓屋、川やなぎ、ポプラ、背戸に積んだ刈り草の、空はやわらかにうすら霞んで、南欧らしい気分は、急行の汽車の中までただようている。ふりかえるとリヨンの街は、どんよりともう立ちこめた烟の中に隠れて、今となれば、さすがもの悲しいフールヴィエの丘の雪も、岸のポプラのむら立ちも、あわただしく別れては来たがこの都も、
別れ路にまた降りそめし川岸のポプラの群のかおる朝雨。
それもよし、今宵は雪のスウィスである。室にかけたシャモニーの広告もうれしかった。
私は窓ぎわのテーブルに、スウィスの地図を拡げる。もう一人のお客さんは、入り口の方に倚りかかってこくりこくりやって御座ったが、やがて、アヴァランシュのような大鼾をかき初めた。汽車は鼾を物ともせず、同じような響をたてて、丘の間を走ってゆく。折り折りテレースの上に小さな村が表われる、南表は雪解けの赤屋根であった。
川をはなれると、雪はだんだん深くなって、露わなポプラの木立、遠い丘の、これも真白に包まれた上に、尖塔の夕日に閃くのが、何とも云えず美しかった。が、それも暫し、日の沈む頃には、やや谷合いの雪が深くなったと思えば、さらさらと窓に散る、汽車は粉雪に包まれてゆく。アヴァランシュはそのうちふと眼を覚まして、しばらくもじもじしていたが、烟むそうな顔をして出てしまった。あとは一人で気楽である。
とある停車場でガルソンを呼んで、御茶を運ばせる。空はいつの間にやら暗くなって、雪明りか、うっすらと谷水の見えると思ったのは、あらずそは夕月の光りであった。窓の露をふいて外をのぞくと、狭い谷の空にアクアマリンの夕星を見る。粉雪はやんで、谷の雪は尺をたしかに超えていたろう。又一人の男がやって来て、同じ入り口の席によりかかった、こいつもアヴァランシュかなと横目で見ると、声も立てず、ぐっすりと、彼れは穴籠りの羆熊のように眠っている、元より赤鬚の荒くれ男で。
食堂へ出るまでもない、八時には湖に沿うた街の灯がちらちらして、汽車はシェネーフの停車場に着いた。税関の検査も一寸聞くだけで、荷物を自動車にのせて宿に行く、通りの名はリュー・ドゥ・モン・ブロン Rue de Mt. Blanc、ホテル・ドゥ・ジュネーヴと云う家の名も気に入った。何も自動車を雇うまでもない、停車場からは五分ばかり。