Chapter 1 of 80

まえがき

新しい本の話をしよう。

未来の本の夢を見よう。

ずいぶん長い間、私たちは本の未来について語らないできた。ヨハネス・グーテンベルクが印刷の技術をまとめたのが、十五世紀の半ば。だからもう、新しい本を語るのをやめて、五百年以上にもなる。

あの頃天の中心だった地球は、太陽系の第三惑星になり果てた。光の波動を伝えていたエーテルも、今はきれいさっぱり消え去った。それほどの長い時が過ぎてなお、本は変わらなかった。

時間をかけて練り上げた考えや物語をおさめる、読みやすくて扱いやすい最良の器は、紙を束ねて作った冊子であり続けた。

けれど今こそ、本の未来について語るべき時だ。

私たちは、たいていの人が自分のコンピューターを持って、そのすべてがネットワークされる新しい世界に向かいつつある。国の境や距離の重みが薄れ、望むなら、地球の上の誰とでも大脳皮質を直結できるようになるだろう。

誰も経験したことのない、わくわくするような奇妙な世界が待っている。

人々の考えや思いや表現は、電子の流れに乗って一瞬に地球を駆けめぐる。そうなってなお、考えをおさめる器が紙の冊子であり続けるとは、私には思えない。

本はきっと、新しい姿を見つけるに違いない。

そんな本の新しい姿を、私は夢見たいと思う。

たとえば私が胸に描くのは、青空の本だ。

高く澄んだ空に虹色の熱気球で舞い上がった魂が、雲のチョークで大きく書き記す。

「私はここにいます」

控えめにそうささやく声が耳に届いたら、その場でただ見上げればよい。

本はいつも空にいて、誰かが読み始めるのを待っている。

青空の本は時に、山や谷を越えて、高くこだまを響かせる。

読む人の問い掛けが手に余るとき、未来の本は仲間たちの力を借りる。

たずねる声が大空を翔ると、彼方から答える声が渡ってくる。

新しい本の新しい頁が開かれ、問い掛けと答えのハーモニーが空を覆う。

夢見ることが許されるなら、あなたは胸に、どんな新しい本を開くだろう。

歌う本だろうか。

語る本だろうか。

動き出す絵本、読む者を劇中に誘う物語。

それとも、あなた一人のために書かれた本だろうか。

思い描けるなら、夢はきっと未来の本に変わる。

もしもあなたが聞いてくれるなら、私はそんな新しい本の話をしたい。

これから私たちが開くことになる、未来の本の話をしたいと思う。

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