Chapter 1 of 6
国を偉大にする一の方法
長く外国におり、しかも日本人と交わること少く、かえって日々多数の国の人々と交わっていると、各国の国民性をいくらか窺うことが出来るように思う。我輩の勤めている役所に来ている人々は公式にその国の政府から任命されたるものでないから、国家または政府を代表するものではないが、国民そのものはこれを代表せざるを得ない。政府はこれを任命しないとしても、これを推薦するのであるから自分の国民を辱めるような人を出すはずはない。従ってこの役所に集まって来る人々は、国民性の長所を備えているものであるというも過言であるまい。故に日々交わっていて不愉快と思うものは甚だ少く、性質の善く、交り易い人が多く、仕事するにも自ら愉快である。他山の石以て玉を磨くべしという教が世に伝えられているが、僕は各国人と交わり、各国人の長所を学びたい心持する。例えば某国人は頗る勤勉である。ある国人は快闊である、ある国人は機敏である、ある国人は耐忍が強いというが如く、他国人の長所を見るにつけても、自分の短所が一層明になると思う。かくいうたならば、あるいは謙遜に過ぎて卑屈になる恐もありとするものもあるであろうが、仮りに僕自身は個人としてこの過があるとしても、国民全体はなかなか謙遜の態度を執る恐もないから、僕は寧ろ我国民性に如何なる欠点あるかを省るのが国を偉大にする一の方法でないかと思う。言葉を換えて言えば反省、自己の過を知ること、己の短所を自覚すること、これが大に伸びんとする前に大に屈せねばならぬという訓に適うことで、これがなければ国民は慢心するのみである。慢心は亡国の最大原因である。