Chapter 1 of 7

(一)

ある山国に、美しい湖がありました。

この湖には、昔から、いろいろな不思議なことがありました。青々と澄んだ水が急に濁つたり、風もないのに浪が立つたり、空が曇つて星のない晩でも、湖の中にはお星様が映つて見えることなぞもありました。それには何か深い理由があるだらうと、村の人達は思つてゐましたが、湖の中におゐでになる水神様のほかには、誰も知りませんでした。

いろいろ不思議なことがある中でも、わけても不思議なのは、この湖の上にかかる虹の橋でした。それは、ほかでは見られない綺麗な大きな虹でした。虹が出るたびに村の人達は、いつも湖の岸へ出て、その美しさに見とれて居るのでした。

この湖に向ひ合つて、二つの村がありました。村の人達は、たいてい漁をしたり機を織つたりして、その日その日を平和に暮して居りました。

さて、この湖の一方の村に、おたあちやんと、おきいちやんといふ、それはそれは仲のよい友達がありました。二人とも同じ歳の九つでした。

二人は、姉妹のやうに、いえいえ姉妹よりも、もつともつと仲よしでした。それに顔や姿までが、どことなく似てゐたものですから、村の人達は双児のやうだとよく云ひました。

しかし、おたあちやんの家は、どちらかと云へば、村でも金持ちの方でしたが、おきいちやんの方は貧乏な家でした。また、おたあちやんには、本当のお父さんも、お母さんもありましたが、おきいちやんには、それがありませんでしたから、赤ン坊の時から伯父さんや伯母さんの手で、やしなはれて来たのでした。

この平和な村にも春はおとづれて来ました。機屋の窓にも、湖の上にも、陽炎がゆらゆらと燃えはじめました。

二人の仲よしは、芹だの、蓬だのと、毎日のやうに、湖に沿ふて遠くまで摘み草に出掛ました。

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