Chapter 1 of 8
プロローグ
何年目かで開かれた、それは本当に久し振りの「奇談クラブ」でした。会長の吉井明子嬢は三十近い吉井明子夫人になって、たけく美しく、世にもめでたい令夫人になりましたが、限りなくロマンスを追う情熱は、少しも吉井明子嬢の昔に変りは無く、幹事の今八郎を督励して、吉井合名会社の会議室に、昔の会員達を集めたのです。
今八郎が半白の中老人になったように、若くて華やかだった会員達も、多くは分別臭い年輩になってしまいましたが、吉井明子夫人の案で、新に十数名の若い会員を加えたので、例の会議室の真珠色の光の中に集まった会員の空気は、思いも寄らぬ溌溂さがあり、それは青春の匂いさえも感じさせる生々したものだったのです。
スクリアビンが、音楽に色彩と光線と、香料さえも採り容れて、聴衆のあらゆる官能を動員したように、「奇談クラブ」の舞台装置と、その責道具もまた、一つの立派な綜合芸術でした。クリーム色の四壁に、ほのかに反射し合う真珠色の光や、何処からともなく聴えて来る、クラヴサンやヴィオラ・ダ・ガンバや――今の世の生活には縁の遠い古代の楽器から発するほのかな音楽や、沈香や白檀をくらしい幽雅な香の匂いなどは、会場へ入ったばかりでも、我々を夢幻の境地に誘い込まずには措きません。