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ゆくゆくは ウルヴァの あるじとなる フランシス・ウィリアムへ
わたくし これまでたくさん 本を 書いてきましたが、 おぎょうぎのいい みなさんのお話ばかり。 ですからたまには いけすかない おふたりさんの ものがたりを しようと思います。 お名前は、 あなぐまトミーと きつねめさん。
きつねめさんを だれも「すてき」と ほめません。 ウサギたちの きらわれものです。 おかげで 1キロくらい はなれていても においが わかるくらい。 いつも きつねひげで あたりを うろつく、 行く先なんて だれにも さっぱり。
ある日の すまいは ぞうき林の えだごや、 そのせいで ぴょんぴょんベンジャミンじいさんの 家ぞくは びくびくもの。 つぎの日には みずうみのほとり ずんぎりやなぎに お引っこし、 マガモも ビーバーも ぶるぶるもの。
冬や 春先、 見かけるのは たいてい 土のなか、 おうし土手のてっぺん 岩場のところ、 つまり むぎむぎいわおの ふもと。
そもそも 6つ おうちが あるわけですが、 家に いることは あまりなく。
また そのおうちにしても いつも るすというわけでも なく。 きつねさんが 出かけているとき たまに あなぐまトミーが もぐりこんでいたり するのです(ことわりも なしに)。
あなぐまトミー、 こいつは ずんぐり ごわごわ よたよた にやにや。 いつも まんめんの えみ。 あまり すてきな くせとは いえません。 ハチのすや カエル ミミズを 食べて、 月あかりのもと あたりを うろついては ものを ほりだします。
めしものは きたない、 お昼ねのときにも いつも くつを はいたまま ベッドに 入る、 しかも もぐりこむ ねどこは だいたい きつねめさんの ものでした。
ところで この あなぐまトミー、 たまに ウサギパイを 食べるのです。 とはいえ ほんの 子ウサギのものを たまにだけで、 ほんとに 食べものが ほかに ないときだけ。 ぴょんぴょんじいさんとは 気が合うみたいで、 ふたりとも いじわるカワウソや きつねめさんが きらいなのだとか。 えんえん わる口を 言い合うことも しばしば。
ぴょんぴょんじいさんは もう だいぶ おとし。 穴を 出たところ えりまきまいて 春の日なたぼっこ。 ウサギたばこを パイプで ふかしていました。
ひとつやねを ともにするのは むすこの ばにばにベンジャミンと むすこのよめ フロプシー、 ふたりは 子どもを もったばかりです。 ぴょんぴょんじいさんは ある日の午後 子どもの めんどうを 見ることに なっていました。 ベンジャミンと フロプシーが お出かけしたからです。
生まれたばかりの 子ウサギたちは 青い目を ぱちくり 足を じたばたさせるので せいいっぱい。 子ウサギの ねどこは ウサギの毛と ほし草で ふっかふか、 おもやの 穴とは またべつの あさい穴に なっていました。 ところが なんと ―― ぴょんぴょんじいさんは そのことを どわすれしたのです。
日なたぼっこしながら 森を 通りがかった あなぐまトミーと ねつの こもった おしゃべり。 トミーは ふだん 穴ほりや モグラ取りに つかう ふくろも スコップも わきに おいて、 キジの たまごが 足りないと ぶつくさ ぐちり、 きつねめさんが かすめとっていると とがめます。 しかも 自分が 冬みんしている すきに カワウソが カエルを 食べつくしたとかで ――「この 2週間 わしゃ ろくなもんに ありつけとらん。 イモなんかで 食いつないどる。 こうなったら ベジタリアンにでも なって 自分の しっぽでも かじるしかないわいな!」と あなぐまトミー。
おふさげでも ないのに、 へんに ぴょんぴょんじいさんの つぼに 入ってしまって。 あなぐまトミーが あんまり ずんぐりむっくり にやけ顔だったもので。
ですから わらいながら ぴょんぴょんじいさんは あなぐまトミーを 引き入れます。 まあ なかに 入って パウンドケーキを 1まい、 あと 「むすめの フロプシーが こしらえた カウスリップの おさけでも 1ぱい」 口に しないかと すすめました。 あなぐまトミーは うきうき ウサギ穴に からだを ねじこみます。
そのあと ぴょんぴょんじいさんは パイプを もう1ぷく、 あなぐまトミーには キャベツの 葉まきを さしあげました。 これが かなり きついものだったので、 あなぐまトミーの にやけ顔が さらに ひどくなりまして。 しかも 穴じゅう けむりまみれ。 むせながら わらう ぴょんぴょんじいさんに、 ふかしながら にやにやする あなぐまトミー。
こうして ぴょんぴょんじいさんは むせわらううちに キャベツの けむりで 目も あけていられなくなって ……
するうち おうちに 帰ってくる フロプシーと ベンジャミン ―― ぴょんぴょんじいさんも 目を さまします。 すると あなぐまトミーも 子どもたちの すがたも ないではありませんか!
ウサギ穴に だれか まねき入れたことを がんとして うちあけない ぴょんぴょんじいさん。 ところが アナグマの においは かくしきれませんし、 土には 丸々とした 足あとが ぐっと ついていました。 ふざけるな という 話で。 耳を かきむしりながら フロプシーは あいてを しばきたおします。
ばにばにベンジャミンは すぐさま とび出て あなぐまトミーを おいかけました。
あとを たどるのは なんなく できます。 足あとも のこってましたし、 あいての 歩みも 森の うねうね 小道を のろのろするだけでしたし。 こっちには コケや カタバミを むしりとった あと。 あっちには ドクムギを ごっそり ほりかえした あと。 それから モグラ取りの わな。 みちみち 小川も ありました。 ベンジャミンは 足を ぬらさないよう かろやかに ぴょんと とびこえます。 アナグマの 足あとは どろにも くっきり はっきり ついていました。
小道の 先は ぞうき林の かたすみ、 木が 切りひらかれた ところです。 あるのは 葉っぱの 多い オークの 切りかぶと、 いちめんの 青い ヒヤシンス ―― においが して ベンジャミンは 足を とめますが、 お花の せいでは ありません!
きつねめさんの えだごやが 目の前に。 しかも ちょうど ご本人が ございたく。 そのしるしに キツネくさいですし、 それどころか ―― えんとつ がわりの 穴あきバケツから けむりが もくもく。
ばにばにベンジャミンは 前足を あげて にらみつけ ひげを ぴくぴく。 えだごやの なかでは だれかが おさらを おとしたみたいで、 なにやら 言っています。 ベンジャミンは 足ぶみして、 びゅーん。
そのまま 足を とめずに 森の はしまで やってきました。 どうも あなぐまトミーも おなじほうへ むかったようです。 石がきの てっぺんに またもや アナグマの 足あと。 そして ふくろから ほつれた 糸が ちらほら イバラに 引っかかっていました。
ベンジャミンは 石がきを のりこえ むこうの 野原へ。 しかけたばかりの モグラわなが またひとつ 見つかりました。 この先に あなぐまトミーが いるのは たしかです。 日ぐれも 近く、 夜風を たのしもうと ウサギのみんなも だんだんと 外に 出てきました。 なかでも 青い うわぎを きた ウサギが ひとりで いそいそ タンポポさがしを していて ――「いとこの ピーター! あなうさピーター、 あなうさピーターか!」と 声を はる ばにばにベンジャミン。
青い うわぎの アナウサギは 前足を あげて 耳を ぴん ――「いったい 何ごとだよ、 ベンジャミン。 ネコ? それとも 白イタチの なつあかジョン?」
「ちがう ちがう! やつが、 オレの 子どもを みんな くすねたんだ ―― あなぐまトミーが ―― ふくろに つめて ―― 見なかったか?」
「あなぐまトミー? ベンジャミン、 子どもを みんなって?」
「7ひきだよ、 ピーター。 ななつごなんだ! あいつ、 この先に 行ったんだよな? たのむ 早く 教えてくれ!」
「来、 来たよ。 まだ 10分と たってない …… なかみは イモ虫だって 言ってたけど。 そういえば やけに 足が じたばたしてたな、 イモ虫にしては。」
「どっちだ? どっちに 行った? なあ ピーター!」
「なかに 生きものの 入った ふくろを 持ってて、 見てる 前で モグラの わなをしかけてたな。 わかったから ベンジャミン、 そもそも どういうことなんだ?」
ベンジャミンから かくかくしかじか。
「なるほど あの おじさんも としだから ついに もうろくが ひどいのか。」と ピーターも しみじみ。「でも 風向きは まだ わるくない。 足じたばたって ことは 子どもは 生きてるって ことだし、 あなぐまトミーも はらごしらえしたばかり。 たぶん これから ひとねむりするから みんな 朝ごはんに おあずけのはず。」
「どっちなんだよ。」
「ベンジャミン おちつけって。 やつの 行き先なんて ぼくには まるわかりだ。 きつねめさんが えだごやに ございたくなら、 やつは きつねめさんの もうひとつの おうち、 おうし土手のてっぺんに 行ったんだ。 たぶん そうだよ。 だって やつは カトンテルねえさんの うちに ことづてしてくれるって、 ちょうど 通りがかったときに 言われたからね。」(カトンテルは 黒ウサギと むすばれて おかの上に うつりすんでいました。)
ピーターは つんだ タンポポを しまって、 うちひしがれた ベンジャミンに つきそいます。 親としては もう 気が気で ありません。 ふたりは いくつか 野原を こえたあと おかを のぼりだしました。 あなぐまトミーの のこした あとは はっきりしています。 どうやら 10メートルごとに ふくろを おろして ひと休みしていたようで。
「つまり いきが 上がってたんだな。 においからすると あとは すぐそこだ。 それにしても くさい!」と ピーター。
日ざしは まだ ぽかぽか、 おかの まきばに さしこんでいます。 おかの なかほど、 戸口に こしを おろしている カトンテル、 かたわら 育ちざかりの 子ウサギが 4、5ひき はしゃぎまわっていました。 ひとりだけが 黒で、 あとは みんな 毛が 茶色です。
カトンテルは あなぐまトミーが 通りがかるのを 遠くから 見ていました。 だんなさんは ございたくかと あいさつされると、 そういえば 見えなくなるまでに 2回 あなぐまトミーは ひと休みしたとの話で。
あいては こうべを たれると ふくろを ゆびさして、 みを よじるほど わらったとかで。 ――「行こう ピーター。 やつは そのうち 火を 入れ出すぞ。 いそげ!」と 言うのは ばにばにベンジャミン。
ふたりして おかの上へ 上へ。 ――「うちに いたよな。 穴から 黒い 耳が のぞいてたし。」「住まいが 岩場に 近いんだ。 おとなりさんとは もめたくないんだよ。 まあ 行こう、 ベンジャミン。」
おうし土手の てっぺんにある 森近くまで 来た ふたりは、 気を とがらせます。 木々の おいしげる ごつごつした 岩場。 そして 見えてくる、 いわおの下、 きつねめさんの こしらえた おうちの ひとつ。 土手の 坂を のぼりきったところに あって、 岩やら 枝やらに おおわれています。 ウサギたちは こっそり しのびより、 耳を すまして 目を こらしました。
このおうちは、 ほら穴と ろうやと あばらやを 足して 3で わったみたいな ものでした。 がんじょうな ドアが かたく とざされています。