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俳句の初歩
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俳句の初歩
正岡子規
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Chapter 2 of 8

(一) 理窟を含みたる句

理窟に美を含まざるは論を待たず。もし理窟に美ありといふ人あらば、その人は必ず美を解せざる人ならん。いやしくも理窟以外に多少の美を認めたる者は、理窟に美ある事を許さざるべし。しかして当時の予は実にこの必要なる一事をも解せざりしなり。理窟を含みたる俳句といふ、いかに理窟多しとも、既に俳句といふ上は幾何の文学趣味を含まざるはあらず。もし理窟的俳句に美ありとすれば、その美は理窟の部分にあらずして、文学的の部分にあるべきはずなり。当時予が好みし中には

物いへば唇寒し秋の風         芭蕉葉隠れて見ても朝顔の浮世かな     野坡世の中は三日見ぬ間に桜かな      蓼太

の如きあり。もしこれのみならんには、あるいはこの句の文学趣味の上に取るべき所ありて取りたりとも見るを得ん。しかれどもこれと同時に予の好みし句には

よつひくは勇なり放たぬは仁なり智の一つ足らでをかしき案山子かな   楽翁

の如きあり。この句は五七五の音調を除きて外は純粋の理窟より成る者にて、この句の文学趣味として目すべき者は針のさきほどもあらざるに、予はこの句を好みたりとすれば、当時の予の嗜好は純粋の理窟の上に美を認めたる者なり。しかれども理窟の上に美のあるべき道理なければ、その美と認めたるは真の美に非ずして、知識の上より生ずる一種の快感を美と誤認せしなり。知識の上より生ずる快感は謎を解き、数学の問題を解きたる時に生ずる快感の類にして、むつかしき書物(殊に外国語の書物)を漸く読み得し時の快感もまたこの種に属す。芭蕉の秋風の句は世間にて往々過賞を蒙れども、こは口は禍の門といへる極めて陳腐なる理窟を十七字に並べたるに過ぎず。世人は理窟なるが故にこれを賞する者にして、もし理窟ならざりせばこれを賞せざるべし。かつ陳腐なる理窟なるが故にこれを賞する者にして、新しき理窟ならばこれを賞せざるべし。何故といふに世人はこの句を読んで、自己がかつてより知り得たる理窟に遭遇したるがために愉快を感ずる者にして、その愉快は外国の書物の中に、自己が解し得る語に遭遇したる時の愉快と同じく、知識の上より来る者なり。感情の上より来る美感と全く種類を異にす。これらの句縦し幾多の文学的技倆を現し得たりとも、根本において理窟に陥る者、特にこれを賞するは美を解せざるがためなり。

Chapter 2 of 8
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