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俳人蕪村
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俳人蕪村
正岡子規
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Traducción Pagera AI
Original Public Domain
Chapter 4 of 15

人事的美

天然は簡単なり。人事は複雑なり。天然は沈黙し人事は活動す。簡単なるものにつきて美を求むるは易く、複雑なるものは難し。沈黙せるものを写すは易く、活動せるものは難し。人間の思想、感情の単一なる古代にありて比較的によく天然を写し得たるは易きより入りたる者なるべし。俳句の初めより天然美を発揮したるも偶然にあらず。しかれども複雑なるものも活動せるものも少しくこれを研究せんか、これを描くことあながち難きにあらず。ただ俳句十七字の小天地に今までは辛うじて一山一水一草一木を写し出だししものを、同じ区劃のうちに変化極まりなく活動止まざる人世の一部分なりとも縮写せんとするは難中の難に属す。俳句に人事的美を詠じたるもの少きゆえんなり。芭蕉、去来はむしろ天然に重きを置き、其角、嵐雪は人事を写さんとして端なく佶屈牙に陥り、あるいは人をしてこれを解するに苦しましむるに至る。かくのごとく人は皆これを難しとするところに向って、ひとり蕪村は何の苦もなく進み思うままに濶歩横行せり。今人はこれを見てかえってその容易なるを認めしならん。しかも蕪村以後においてすらこれを学びし者を見ず。

芭蕉の句は人事を詠みたるもの多かれど、皆自己の境涯を写したるに止まり

鞍壺に小坊主のるや大根引のごとく自己以外にありて半ば人事美を加えたるすらきわめて少し。

蕪村の句は

行く春や選者を恨む歌の主

命婦より牡丹餅たばす彼岸かな

短夜や同心衆の川手水

少年の矢数問ひよる念者ぶり

水の粉やあるじかしこき後家の君

虫干や甥の僧訪ふ東大寺

祇園会や僧の訪ひよる梶がもと

味噌汁をくはぬ娘の夏書かな

鮓つけてやがて去にたる魚屋かな

褌に団扇さしたる亭主かな

青梅に眉あつめたる美人かな

旅芝居穂麦がもとの鏡立て

身に入むや亡妻の櫛を閨に蹈む

門前の老婆子薪貪る野分かな

栗そなふ恵心の作の弥陀仏

書記典主故園に遊ぶ冬至かな

沙弥律師ころり/\と衾かな

さゝめこと頭巾にかつく羽折かな

孝行な子供等に蒲団一つづゝ

のごとき数え尽さず、これらの什必ずしも力を用いしものにあらずといえども、皆よく蕪村の特色を現わして一句だに他人の作とまごうべくもあらず。天稟とは言いながら老熟の致すところならん。

天然美に空間的のもの多きはことに俳句においてしかり。けだし俳句は短くして時間を容るる能わざるなり。ゆえに人事を詠ぜんとする場合にも、なお人事の特色とすべき時間を写さずして空間を写すは俳句の性質のしからしむるに因る。たまたま時間を写すものありとも、そは現在と一様なる事情の過去または未来に継続するに過ぎず。ここに例外とすべき蕪村の句二首あり。

御手討の夫婦なりしを更衣

打ちはたす梵論つれだちて夏野かな

前者は過去のある人事を叙し、後者は未来のある人事を叙す。一句の主眼が一は過去の人事にあり、一は未来の人事にあるは二句同一なり、その主眼なる人事が人事中の複雑なるものなることも二句同一なり。かくのごときものは古往今来他にその例を見ず。

Chapter 4 of 15
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