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蓮の花開く音を聴く事
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蓮の花開く音を聴く事
南方熊楠
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Original Public Domain
Chapter 3 of 7

三

扨、時計や晴雨計を持たぬ所では、草木を觀察して時や天氣を察知した例多し。朝顏・晝顏・夕顏等、其名の如く其時に開き、西洋でもオシロイ花を、開く時に因んで、四時(フオワ・オークロック)と呼ぶ。蒲公英(タンポポ)は、本邦で朝開き午以後萎むといふが、歐洲では、毎朝五時に開き午後八時に閉るから牧童の時計とし、又、晴雨計たり。晴天に其種子の毛が展開し、雨天には閉ぢ合ふからだ。アネモネの花瓣、亦雨や夜の前に捲上つて睡る。ルリハコベは雨近付ば必ず花を閉ぢ、午後二時頃定つて花萎むから、英國の古諺に、其徳聞き盡し難く、述べ盡す可らずと云ひ、貧者の晴雨計と俗稱さる。(Frind. op. cit vol. , pp. 232, 337, 338; 和漢三才圖會、一〇二、Folkard,‘Plant Lore, Legends and Lyrics,’ 1884, pp. 309, 494)

明治卅五―卅七年の間だ、予、那智山に住だ内、屡ばコアカソ(方言ガニクサ)の葉は、夕五時に凋れ垂るときゝ、試みると略ぼ然りだつた。ざつとこんな理窟で、知らぬ昔しは蓮花の開くを見て、時刻や天候を察したのが、相場師に傳はり、其祕訣が忘られ、或は悉く信ぜられぬにんだ後も、相場師は、信心連同樣、靜かな城※や池塘に早起して往き、蓮花の開く音を聞き乍ら心を澄し、落ち著て種々の奇計神策を煉た事と察する。

Chapter 3 of 7
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