Chapter 5 of 28
蛮人の奇術
魏のとき、尋陽県の北の山中に怪しい蛮人が棲んでいた。かれは一種の奇術を知っていて、人を変じて虎とするのである。毛の色から爪や牙に至るまで、まことの虎にちっとも変らず、いかなる人をも完全なる虎に作りかえてしまうのであった。
土地の周という家に一人の奴僕があった。ある日、薪を伐るために、妻と妹をつれて山の中へ分け入ると、奴僕はだしぬけに二人に言った。
「おまえ達はそこらの高い樹に登って、おれのする事を見物していろ」
二人はその言うがままにすると、彼はかたわらの藪へはいって行ったが、やがて一匹の黄いろい斑のある大虎が藪のなかから跳り出て、すさまじい唸り声をあげてたけり狂うので、樹の上にいる女たちはおどろいて身をすくめていると、虎は再び元の藪へ帰った。これで先ずほっとしていると、やがて又、彼は人間のすがたで現われた。
「このことを決して他言するなよ」
しかしあまりの不思議におどろかされて、女たちはそれを同輩に洩らしたので、遂に主人の耳にもきこえた。そこで、彼に好い酒を飲ませて、その熟酔するのを窺って、主人はその衣服を解き、身のまわりをも検査したが、別にこれぞという物をも発見しなかった。更にその髪を解くと、頭髻のなかから一枚の紙があらわれた。紙には一つの虎を描いて、そのまわりに何か呪文のようなことが記してあったので、主人はその文句を写し取った。そうして、酔いの醒めるのを待って詮議すると、彼も今更つつみ切れないと覚悟して、つぶさにその事情を説明した。
彼の言うところに拠ると、先年かの蛮地の奥へ米を売りに行ったときに、三尺の布と、幾升の糧米と、一羽の赤い雄と、一升の酒とを或る蛮人に贈って、生きながら虎に変ずるの秘法を伝えられたのであった。