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鱧の皮
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鱧の皮
上司小剣
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Terang
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Sepia
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Terjemahan Pagera AI
Asli Public Domain
Chapter 6 of 9

六

夜も十時を過ぎると、表の賑ひに変りはないが、店はズツと閑になつた。

「阿母アはん、今夜泊つて行きなはるとえゝな。……今から去なれへん。」

漸と自分の身体になつたと思はれるまでに、手の隙いて来たお文は、銀場を空にして母の側に立つた。

「去ねんこともないが、寝た児を連れて電車に乗るのも敵はんよつて、久し振りや、そんなら泊つて行かう。……をツさんは、もう去ぬか。」

其の日の新聞を披げた上に坐睡をしてゐた源太郎は、驚いた風でキヨロキヨロして、

「あゝ、去にます。」と、手を伸ばして姉の前の煙草入を納ひかけたが、煙管は先刻から煙草ばかり吸ひ続けてゐる姉が持つたまゝでゐた。

「狭いよつてなア此処は、……此処へ寝ると、昔淀川の三十石に乗つたことを思ひ出すなア。……食んか舟でも来さうや。」と、お梶は煙管を弟に返し、孫の寝姿に添うて横になつた。

「をツさん、善哉でも喰べに行きまへうかいな。……久し振りや、阿母アはんに一寸銀場見て貰うて。……なア阿母アはん、よろしおまツしやろ。」

何もかも忘れて了つたやうに、気軽な物の言ひやうをして、お文は早や身支度をし始めた。

「いといで。眼がわるなつたけど、こなひだまでしてた仕事やもん、閑な時の銀場ぐらゐ、これでも勤まるがな。」と身を起して、お梶はさツさと銀場へ坐つた。

「またもや御意の変らぬ中にや、……をツさん、さア行きまへう。」

元気のよいお文を先きに立てて、源太郎は太い腰を曲げながら、ヨタヨタと店の暖簾を潜つて、賑やかな道頓堀の通りへ出た。

「牛に牽かれて善光寺参り、ちふけど、馬に牽かれて牛が出て行くやうやな。」と、お梶は眼をクシヤ/\さして、銀場の明るい電燈の下に微笑みつゝ、二人の出て行くのを見送つた。

Chapter 6 of 9
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