Chapter 8 of 8
諸城某甲
学師、孫景夏先生の言に、その邑のうちの某甲なるもの、流寇の乱に値ひて殺され、首は墜ちて胸前にかゝりぬ。寇の退き去りし後、家人はその尸ををさめて葬りなむとするに、縷々たる生気仍通へり。仔細にむるに、咽のふえなほ断えざりければ、其頭をさゝへて荷ひ帰りぬ。かくて一昼夜にして始めて呻吟の声きこゆ。その後は飲食共にやうやう匕もてあてがひ、かくすること半年、竟に愈えぬ。又十余年を経て、一日二三人と集会して物語するとき、をかしき言いひ出づるものありて、一座壁も落ちむばかりに笑ひくづれぬ。某甲も亦掌を皷ちてくつがへるをりしも、刀痕暴かに裂けて、頭墜ち、血潮流れ出で、呼息絶ゆ。そのものゝ父はかの笑はしめしものを公に訟へければ、一座に連りしものより金を歛めて賂り、某甲を葬りて、事解けぬとなむ。(新古文林 第一巻第五号 明治三十八年八月)
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