Chapter 6 of 29
明赤絵盛盞瓶
厳寒の日のことであった。楊貴妃は玄宗皇帝と共に庭に出て来た。折柄軒にツララの下りたるを指して、妃は「氷箸」と美しく叫び、形容の妙を賞されて一入玄宗の寵を贏ち得た。雪をもあざむくふくよかな楊貴妃の指先に、危げなハンドルを握られて、その繊細であでやかな唇に玉杯を運ぶ、世に謂う盛盞瓶なるものはまさにこれ……と言っても、誰もまさかとは言うまい。
しかし、その玄宗の唐代にはかように美しき磁器は生まれていなかった。それが明のころ、成化年代になり磁器の技工はかくまで進んだ。しかし、中央に描かれた金色唐草あって、この器は一段と威厳を発し、光彩の調子を強くするものである。元々金は箔押しであり泥金焼付けでなかったため、今は剥落してその跡を断つものが多い。本器に見るが如く、金色を鮮やかに残すものは、最も稀に見るところとす。日本の九谷はこれら赤絵付けの特色を十分に捕え得て、弥々妙境に進んだと見るべきである。(昭和九年)